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2006年8月22日 (火)

木星からの依頼

 思いもかけなかった某誌から、思いもかけないお仕事のご依頼をいただく。文章の応用力を養成するというテーマで組まれる特集の中の1編だ。小説の書き方を指南するような趣旨のページを、主として『ラス・マンチャス通信』を題材に担当してほしいとの由。こんな駆け出しの自分が? しかも自作をネタに? なんとおこがましい。

 担当のMさんは、大学教授であった僕の父親のことも知っており、その父親の知り合いであるI先生という人からの紹介で、僕に電話をくださったらしい。

「ただですね、小説なんて、“こう書け”と言われて書けるようなものではございませんので、もうエッセイ風に、ご自分のことをお書きになられるのでけっこうなんでございますが、ええ、ただ、ご自分のお作品を一部、引用なさるような形で、はい……」
「ああ、はい、趣旨は了解いたしました。了解しましたが、私なんかでよろしいのでしょうか? 私なんてまだ新人みたいなもので、作品もですね……」
「いえいえ、それはもう、I先生が“非常に素晴らしい小説だ”と太鼓判を押してくださってますので……」
「あの……『ラス・マンチャス通信』、読まれました?」
「あっいえ、あの、わたくしはまだ拝読してはいないのですが……申し訳ございません、そんな、拝読してもいないのに原稿のご依頼だなんて、あつかましいかぎりなんでございますが……」
「あ、いえ、それは別に、あの、ぜんぜんけっこうなんでございますが、あのですね、……非常にその、特異な小説なんですよ」
「あ、はい、そのように伺っております」
「はっきり言って、かなり特異なんですよ。いいんでしょうか、そんなのを扱ってしまって」
「えぇえぇ、むしろその方がよろしいかと。若手の方の、現代的な題材の方がよろしいかなという考えあってのことでございますから」

 そういうことなら、いいのだろうか(「若手」と言うほど若くはないし、あれが「現代的な題材」なのかどうか自分にはよくわからないのだけど)。

 というわけで、ここはひとつ、紹介してくれたI先生に感謝しつつ、ご依頼を受けることにしたのだが、電話をくださったMさん、たまたまなのか声が遠かったこともあり、またこのようにきわめてていねいな言葉づかいをされる方だったこともあって、電話を切った後、なんだかすべてが夢だったかのような、あるいは木星あたりからの超遠隔通信ででもあったかのような、不思議な感覚に見舞われていた。

 しかし今日になって、見本誌と依頼趣旨をまとめた書類が、東京都文京区の住所が書かれたところから届いていたので、ああ、やはり夢ではなかったし木星からの通信でもなかったのだと思った。それと同時に、「ほんとにいいのかな、ラスマンで。しかも本文を引用して?」というためらいが、再び頭をもたげてくるのであった。

 

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