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2006年8月 5日 (土)

花火

 先日初めて購入した浴衣を着て、50万人が集まる荒川河川敷の花火大会を観に行き、慣れない下駄で歩き回ったら、死ぬほど疲れ切ってしまった。

 花火を見るたびに思うことがある。夜空に飛び散るメタリックな赤や青や緑、ああいう系統の色が使われはじめたのは、どうも、なんとかストロンチウムだとかなんとかマグネシウムといった化学薬品についての知識が導入された明治時代以降のことらしいが、あれはとても、近代的な、というか、それをさらに超えてSF的な色だと思うのだ。明治時代の人々がどんな気持ちでああいう色を見ていたのか、興味のあるところだ。

 ところで、今年はうかうかしているうちにその花火大会の指定席のチケットを手に入れそびれてしまっていたのだが、妻がどうしても指定席で観たいと言うので、ちょっとびっくりするほど高値になっているやつをヤフオクで入手した。チケットが届いたのは当日の朝10時だった。

 そんなわけで、指定席で悠々と楽しめたのはよかったのだが、斜め後ろの若いカップルの男の方が、なんだか口数が多い。おしゃべりをしていると言うより、花火が打ち上がるたびになにかしら感想を言う。いや、そりゃ感想は誰だって口にするだろう。僕らだってそうだ。しかし、それがあまりにのべつまくなしなのだ。

「おおっ、いいね!」「たぁ〜まやぁ〜!」「ブラボー!」「あれいいね!」「おお、増殖してる増殖してる!」「高い!」「デカい!」「多い!」「ブラボー!」「いいねこれ!」「スターウォーズか!」「増えてる増えてる!」「おおっ、あれいいね!」「ブラボー!」「たぁ〜まやぁ〜!」

 うるさいなぁ、とちょっとイライラしてきたので、僕は意識をそらして、それが聞こえないように脳をコントロールしていたのだが、その間に妻が、貴重なやりとりを傍受していた。あるとき、ずっと黙っていた隣の女の子が、ひとこと、こう言ったのだ。

「黙れ」

 妻は一瞬、耳を疑ったが、それは彼の方も同じだったらしく、「え……?  ……“黙れ”?」とそのときはひるんだ。しかしそれに対する女の子の返事はなかった。普通、返事がなかったということは、やっぱり「黙れ」だったのだ、と解釈するのではないかと思うが、彼は逆に取ったか、聞こえなかったことにしたかしたらしく、その後も結局同じ頻度でのべつまくなしの感想を言いつづけていたという。

 彼なりに盛り上げようという気づかいだったのだと思えば痛ましくなくもないが、空気を読む能力は早めに身に着けておいた方がいいと思った夏の夜だった。


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