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2006年11月29日 (水)

80年代の青春

 津原泰水さんの『ブラバン』を読み終わる。高校時代の吹奏楽部のエピソードと、20数年後、オジサン・オバサンになってしまった元吹奏楽部員たちのエピソードを往復する形で書かれたものだが、この人はどんなスタイルで書いてもとにかく圧倒的に文章がうまいので、最後まで気持ちよく読めた。ただ、かなり苦い話ではある。もちろん、そこがまたいいのだが。

 それより、語り手である「多片」(タヒラ)が高校1年だったのが1980年で、それから卒業までの数年の話が断続的に語られるわけだが、「1980年代の青春」を描いた小説というのは、意外に見当たらない気がする。ちょっと考えてみて、すぐには思いつかないのだ。

 その頃の僕は小学6年生なので、「青春」と言うにはまだ早い。しかし、時代の雰囲気だけはなんとなく覚えている。帯にもあるとおり、「大麻を隠し持って来日したポール・マッカートニーが一曲も演奏することなく母国に送還され、ビル・エヴァンスがジョン・ボーナムがジョン・レノンまでも死んでしまった、1980年(昭和55年)」。まさにそれだ。音楽としての、文化としての「テクノ」が台頭しはじめるのもそれと軌を一にしているし、世の中がなんとなく浮ついた感じになってくるのもその頃だったのじゃないかと思う。

 あ……なんかいやだな。こういう調子で書いているとまた、「つまらない」「くだらない」とか言われそうだな。しかし無視して続けよう。だってこれはブログなんだから。思いつきレベルのことをタラタラ書いて何が悪い?  って被害妄想ですかね。なんか疲れ気味なので気持ちがササクレ立っている。ナーバスになっている猫状態。

 ……気を取り直して、と。当たり前のことだが、あれはあれで、特異な空気に支配された一時期だったと思う。そういう「80年代の青春」を描いたという意味でも、この小説は特筆に値するのではないだろうか。少なくとも僕は、そういう観点からもこの小説を堪能した。

 で、家に帰ってきたら、『シュガーな俺』を読まれた「日刊ゲンダイ」の人から取材依頼のメールが来ている。今度は書評や書籍紹介ではなくて、「健康」コーナーだ。そうそう、そういう切り口でも取材してくれないかな、と思っていたのだ。しかし、本を直接の対象とした取材ではないとすると、作家としてよりもむしろ、「糖尿病患者」としての自分にスポットが当てられることになるのだろう。なんだか変な感じだ。

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コメント

先般、本屋で探していた本(シュガーなんとかという本です)が見つからなくて、別の本を買って帰ろうと思ったんですが、その時、「そうだ、あの作家の本を買おう」と思いつつ、ついに思い出せなかった作家の名前が津原泰水だった、と今思い出しました。
僕は『蘆屋家の崩壊』だけは読んでたんですが、センセイが「黒シミ」で書かれていた『綺譚集』とか『少年トレチア』を読みたいなと思っていたんですが、てっきり忘れてました(ほぼ認知症)。
もう次作が出てるんですね。僕もブラバン出身ですので、興味ありです・・・僕の青春時代は70年代ですが。

投稿: クマキチ | 2006年11月29日 (水) 23時22分

その、「シュガー」なんとかという本、見つからなくてたいへんでしたねぇ(スイマセン……・笑)。そう、たしかクマキチさんは、『蘆屋家の崩壊』は一人称が「俺」なのがちょっと苦手、という意味のことをおっしゃってましたよね? ちなみに『ブラバン』の一人称は「僕」ですのでご安心を! そして、ぜひお読みになって、70年代のブラバンと80年代のブラバンを比較なさってみてください。

それにしても、クマキチさんもブラバンご出身だったとは。もしかして、クマキチさんのジャズへのご愛好とそれは微妙にクロスしていたりするのでしょうか。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年11月30日 (木) 00時06分

二日遅れでやっと『週刊現代』が入荷&入手しました。
なんだかピントがはずれたような感想になりますが、「(作家デビューが)糖尿病になったことの代償なのかもしれない」のくだり、非常に重く感じられたのと同時に、「わたしもまだまだこれからいいことあるかもな」と楽になる部分がありました。

『日刊ゲンダイ』の「健康」コーナーの取材でも、「病気でも人生を楽しめる」というところがでるといいだろうなぁと思っています。(mixiの医療関係のコミュニティでも、「糖尿病が発覚して絶望」というようなトピックがあがっているので『シュガーな俺』をおすすめしようかどうか迷っているのですが、糖尿病でない者からだとかえって気に障らないか気になりつつ文章考え中です。)

投稿: ダレカ | 2006年11月30日 (木) 01時30分

「ピントがはずれた」なんてことはまったくありませんよ、むしろ、その部分こそがあのインタビューにおける根幹と言ってもいいくらいで。ともすれば誤解を招きそうな言い方とも思うのですが(つまり、あたかも僕が「糖尿になってよかった!」と言っているかのような)、そういう+−で構成される人生、といったものの見方はアリだと思うんですよね。いいこと、きっとこれからもあると思いますよ!

ところで、mixiのそのコミュニティですが、いや、ぜひお勧めしてしまってください。糖尿病でない人からの推薦であっても、ひやかすような感じでさえなければ、気に障ったりとかそういうことはまずないと思いますよ(と、糖尿病患者としての僕は思います)。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年11月30日 (木) 01時45分

こんばんは。

おすすめしてきましたー。
「医療関係では最大のコミュニティ」ということでクローズアップされていたときに参加するようになったところだったので、緊張しました。糖尿病専門というわけではないので、どのくらいの方がご覧になるのかはわかりませんが……。

でも、糖尿病であるかどうかに関わらず、こちらや連載ページの書き込みを楽しみに毎日を過ごしているわたしのような者もおりますので、そういう方面でも読者が増えるといいなぁと思いました。

投稿: ダレカ | 2006年12月 1日 (金) 00時52分

ダレカさん、mixiでのご推薦、ありがとうございました。この本は、メディアでの紹介などだけでなく、そうした口コミの力でも伸びていくタイプの本だと信じておりますので、ダレカさんが投じてくださった一石は貴重なポテンシャルとなって浸透していくことでしょう。

しかし、連載も残すところあと1回になってしまいました。さみしいですね……。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年12月 1日 (金) 01時08分

ポールの大麻事件で思い出されるのがYMOの「nice age」。間奏に女性の声でニュース速報が読み上げられるんです。「22番は今日で1週間たってしまったんですけれども、でももうそこにはいられなくなって、彼は花のように姿をあらわします」。この22番というのがポールの囚人番号で、「そこ」というのが東京拘置所かどこかだったんですな。ポール氏はこの来日の際にYMOとセッションする予定があったらしいのですが、それが事件でポシャったのだそうです。ちなみにこの女性ナレが、元サディスティックミカバンドの福井ミカ。なんとも時代な雰囲気たっぷりです。そういえばうちの中学で最もYMO好きなヤツ(現・酒屋社長)がいたのが吹奏楽部でしたっけ。

ともあれ、小説にしても映画にしても、この時代を総括できるタイミングはこれからなのかも知れませんね。ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の「1980」とか、面白かったのかなぁ(未見なのでした)。

投稿: もり | 2006年12月 1日 (金) 04時12分

おお!こんなところでケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の名前を聞くとは・・・。
私はファンなので、ナイロン100℃の芝居はたいてい観に行ってますし、もちろん「1980」も観ましたが、80年代ということに年頭を置いてみていなかったので、すみません。コメントできません。かなり劇場がすいていたのが面白かったかどうかを物語ってる気がしますが、私は個人的に好きです。

平山さんより二学年下の私は小・中・高・大の青春時代がちょうど80年代だったのですが、世間で起こっていることを知らない無知な少女でした。この本を読んでみれば、あの頃の記憶がよみがえりますかね。

投稿: | 2006年12月 1日 (金) 13時20分

> もりさん
そのナレーション、覚えてます! と言うより、今言われて、鮮明に思い出しました! ただ、「nice age」は当時レンタルレコード(文字通り「レコード」!)屋で借りてきてカセットテープにダビングして聴いただけであり、そのテープもいつしか散逸してしまったので、今の今まで脳の奥底にその記憶が眠っていたのです。もちろん、当時はナレーションのそんな背景を知る由もなく、ただ謎の言葉だと思っていただけだったと思います。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏についても、僕がその存在を最初に認知したのは「有頂天のボーカル、ケラ」としてであり、それ自体が80年代(後半だけど)のことだったなぁと懐かしく思い出されます。

> 香さん
ケラリーノ・サンドロヴィッチ、お好きなんですか。いいですよね。でも、「1980」は観てないです。

僕も1980年代当時は……と言うか、それは実のところ今もそうなんだけど、世事には疎いガキだったかと(笑)。ただ、当時は誰も彼も松田聖子カットで、「聖子ちゃんに似てる子を見た!」という情報を辿っていくと、髪型が同じなだけで似ても似つかなかった、とか、『ブラバン』にはそうした種類の風俗描写がチラホラ出てきて、そういう面でもなかなか楽しめますよ。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年12月 1日 (金) 21時06分

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