韓国で『ラス・マンチャス通信』と『忘れないと誓ったぼくがいた』をつづけざまに翻訳出版してくれたStudio Born-Freeの人たちが日本出張にいらっしゃるというので、今日、池袋でお会いすることになった。韓国からのメールで、池袋駅の「35番出口」を待ち合わせ場所に指定されたが、どの出口のことかわからない。僕は池袋にはかなり詳しい方だと思うのだが、そんなナンバリングがされた出口なんてあっただろうか。
ネットで調べて、ああ、サンシャイン方面に出るあの出口のことか、とわかったのだが、彼らは現地のことがわからない状態でそれを指定しているわけで、果たしてちゃんとそこで落ち合えるのだろうか、と直前まで不安だった。後で聞かされたところによると、彼らもいざ池袋に来てから「35番出口」を発見することができず、一度は待ち合わせ場所を「ふくろう像前」(いけふくろう)に変更しようかと検討していたらしい。「35番出口」の場所が判明したのは、待ち合わせの2時間前だったという。
しかし結果としては無事落ち合えたので、近場の店に入ってしばし歓談する。今回いらしたのは2人で、一方の方とは去年の初夏、韓国に行ったときにお会いしたことがあったが、もう一方は初めての方だ。しかしお2人とも、日本に住んだ経験もお持ちでないのにものすごく日本語が達者で舌を巻く。
韓国では日本よりはるかに売れている『ラス・マンチャス通信』が、このたび6刷に達したという。本当にびっくりする。日本ではいまだに初版止まりで、文庫化も危ういというのに。ワスチカの方は、刊行以後、最初はちょっと動きが鈍かったが、それは主要な見込みマーケットである学生たちがちょうど定期試験シーズンで、読書などそっちのけだったことに起因しているらしく、試験が終わった今は順調に伸びているようだ。受験大国である韓国的には、試験がとにかく大事なのだ。
それはそうと、僕はそのStudio Born-Freeとのやりとりにおいて、ひとつ大きなミスを犯していたらしい。今日お会いした人ではないのだが、「ワスチカ」の翻訳に関してメールでやりとりする窓口の立場にあったチェさんという人がいる。この「チェ」という姓は、たぶん崔洋一監督の「崔」と同じだと思うのだが、ハングルで書く場合は"최"と書くのが正しい。ところが僕は、彼宛てに『シュガーな俺』をサインつきで送る際、誤って"죄某さんへ"と書いてしまっていたようだ。
ハングルを読めない人には違いがわからないかもしれないが、"최"と"죄"の違いは、有気音と無気音の違いである。日本人にとっては鬼門だ。両方「チェ」に聞こえる。その違いについての意識が薄いから、文字で見ていても「チェ」としか思わず、名前を書くときにも無気音の方の"죄"で書いてしまったわけだ。
それだけなら、「ひらやまさん」と書くべきところを「ひろやまさん」と書いてしまった程度のほほえましい間違いに過ぎないのだが、困ったことに、"죄"にはそれ自体、意味がある。日本語では「ザイ」、つまり「罪」のことなのだ。おかげでチェさんはその後、社内でみんなに「やあ、罪くん」と呼ばれるハメになったという。チェさん本人含め、むしろおもしろがってくれているということだが、名前を書き間違えるというのはけっこう初歩的なミスだと思うので、たいへん恐縮している。
3時間ほどだったが、とても楽しい時を過ごした。前2作とはまったく異質な作風を持つ『シュガーな俺』についても、近々、翻訳出版のオファーを出してくれるとのことなので、ありがたい限りだ。韓国ではああいうメディカル・エンターテインメントみたいなものがまだ存在していないので、おそらくマスコミの注目を浴びるだろうとのこと。期待して反応を待とうと思う。
最近のコメント