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2006年12月 1日 (金)

ロリータ再読中

 少し前、アーザル・ナフィーシーの『テヘランでロリータを読む』を読んでいる間からずっと、『ロリータ』をそろそろ読み返そうと思っていた。

 ナボコフは本質的に好きな作家なのだが、『ロリータ』を読んだのは高校に入学して間もない頃のことで、それ以来読んでいない。少ない小遣いの中からやりくりして買ったものなので愛着があって、背表紙が黄ばんだ新潮文庫をいまだに持っているが、悪名高い大久保康男氏訳なので、進んで読み返そうという気持ちになれなかった。ところが、見れば若島正さんによる新訳が、同じ新潮文庫から出ているではないか。迷わず買った。

 22年ぶりの再読。高校1年当時ももちろん、ハンバート・ハンバートの行為がことごとく犯罪的であることは諒解していたわけだが、15歳の少年にとって、12〜13歳程度の少女というのは、十分に恋愛の対象になる存在だ。だからたぶんその頃の僕には、ハンバートの変態性をあまりリアルに感得することはできていなかったと思う。今、むしろ年齢的にはハンバート側の立場に立ってみて初めて、彼がいかにとんでもない人物かがわかる。本当にとんでもない野郎だ!

 そういう意味での感慨深さももちろんあるのだが、もうひとつ気づいたこと。おそろしく学識豊かなナボコフのこと、作中には、古今の詩歌や文献からの引用やパロディが夥しくちりばめられている。註釈なしにはとても歯が立たないだろう。そして、絵に描いたような「文学少年」であった高校1年の僕は、「いつかこういう、引用だらけの小説を書きたい。それができるようになるために、せっせと“学識”を仕入れなければ」と思っていた。しかしいざ、夢がかなって本当に作家になった今、そういう野心は驚くほどきれいに拭い去られていることに気づく。

 それも結局、「たわいのない子供の夢」に過ぎなかったということなのだろうか。大人になって、お金を自由に使えるようになったら、山のように買い込んで独り占めしようと思っていたあんまんが、大人の目から見たらもはやそれほど魅力的ではないのと同じで? それとも、これは一種の「堕落」なのだろうか。小説に引用するかしないかにかかわらず、僕がもはやいわゆる“学識”そのものにほとんど関心を持たなくなっていることを考え併せれば、そっちの方が正しい見方なのかもしれない。

 それにしても、ハンバート・ハンバートのロリコン心理は、リアル過ぎる。没後すでに30年になろうとしているナボコフは、自分が生み出した“ロリータ”というキャラクターが形を変え、半世紀後の極東の小国で「ロリコン」「ロリ系」「ロリロリ」といった派生語を産出しながらかくまで定着しているという事実を知ったら、いったいどういう感想を持つのだろうか。

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コメント

文学はまるで読まなかった僕ですが(シュガーな俺で初めて小説を真剣に読みました)ロリータと聞いて思い浮かべたのはやはりロリコンやロリ系の言葉でした。学が無い人間はこれだから困るなあ(苦)

投稿: ゾーン | 2006年12月 2日 (土) 00時39分

ほとんど本を読まれない人たちの間にも言葉として浸透しているという点から、ナボコフの偉大さが逆に推し量れるというものですね(笑)。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年12月 2日 (土) 19時01分

最近ではロリィタファッションが、ヨーロッパ辺りに逆輸出されているという話も聞きますしね。日本好きなフランス女性の中には「ゴスロリ」にはまっている人もいるらしいし。面白いもんです。

投稿: もり | 2006年12月 3日 (日) 08時25分

フランスは昔っから、日本の女子高生の(というより、それがエロに還流された文脈においての)「セーラー服」を逆輸入(?)したりしてますからねー。そういや「ゴスロリ」も派生語のひとつですよね。ゴスロリファッションに身を固めたフランス女性、顔がきれいならゾクゾクするほどハマりそうですなぁ(いや別に僕は、普段はそういう趣味はないんですけどね!)。

投稿: 平山瑞穂 | 2006年12月 3日 (日) 13時09分

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