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2007年1月14日 (日)

蘭郁二郎を今さら悼む

 ある興味と必要があって、ここ数日、蘭郁二郎を読んでいた。ちくま文庫から出ている、日下三蔵氏が編んだ作品集だ。

 蘭郁二郎と言えば、海野十三と並んで、日本SFの先駆者というイメージが強いが、この作品集はむしろ、初期の探偵小説に重きを置いたラインナップになっている。それも、「探偵小説」と言うよりは、どちらかというと江戸川乱歩や夢野久作に連なる、怪奇幻想小説に近いノリだ。昭和10年代にこれか、と思ってけっこう驚いた。

 フェティシズム、マゾヒズム、人形愛、屍体愛好……なんでもアリだ。特に、S少女とM少年がからむ『夢魔』がすごい。曲馬団の中で、醜男な上に芸もへたくそでみんなから蔑まれている「黒吉」が、一方的に憧れているマドンナ少女「葉子」の食べかけのせんべいを偶然入手し、物陰でこっそり、その噛み口がわずかに濡れていることを確認しながら、「葉ちゃんの唾かな」と想像し、その部分を味わってうっとりするところなど、異様なリアリティ(実体験臭?)があって、鬼気迫る感じだ。

 ほかに興味深かったのは、『鱗粉』という作品。僕はかねてより、『ロリータ』の著者であるウラジーミル・ナボコフが蝶の蒐集家・研究者としても有名であったこと(ある種の鱗翅目昆虫には、学名の一部として発見者Nabokovの名が添えられている)と、ジョン・ファウルズの『コレクター』に描かれる、気に入った女を次々に拉致監禁して「コレクション」を楽しむ誘拐魔クレッグが蝶の蒐集家であったことに、とても偶然とは思えない符号を感じているのだが、蘭が書くこの『鱗粉』という作品に出てくる「少女蒐集魔」は、逆に蝶や蛾のたぐいが大嫌いなのだ。

 後期のSF的作品も、それぞれ、そのアイデアの先見性に目を瞠るばかりだ。今でいう遺伝子工学みたいなものも出てくるし、震災で家の下敷きになった少女を、白金でできた神経組織によって救うという『白金神経の少女』などには、山之口洋さんのデビュー作『オルガニスト』を思わせるものがある(もっともそれは、ビルの管理人のおじさんが電気にやられて頭に思い描いた妄想だった、というオチがついてはいるのだが)。

 しかしその蘭郁二郎は、1944年、海外報道班員として搭乗していた飛行機が台湾で山に激突して死亡。もったいない。なんともったいない。

 ちなみに今日は、IKKI連載企画のプロットの手直しと、『冥王星パーティ』のゲラを見るので終わってしまった。やりたいこと・やらねばならないことはいくらでもあるが、気ばかりはやってちっとも辿り着けない。

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