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2007年1月25日 (木)

非・愛読者

 最近、あいついで2通のいわゆる「ファンレター」を頂いた。一方は、厳密に言うと「ファンメール」で、たぶん、このブログで公開しているアドレスを見て送ってくれたのだろう。もう一方は、封書で新潮社宛てに届いた(が、現場の慌ただしさ故しばらく寝かされていて、今ようやく僕の手元に転送されてきた)ものだ。期せずして両方とも、『忘れないと誓ったぼくがいた』を読んだという中学3年生の読者さんで、前者が男の子、後者が女の子だ。

 こういうのは、やはり、感激する。それに、実を言うと、作家デビューして2年強、そういう「いわゆる」つきのファンレターを頂いたのは、これが初めてなのだ。

 翻って考えてみると、僕自身、ファンレターの類いをだれかに送ったことは、(相手が物書きであるかどうかを問わず)一度もなかった。大昔、原田知世宛てのファンレターを書いたような気もするが、たぶん、書き上げた時点で満足してしまったのだろう。投函した記憶がない。

 ただし、本にときどき挟まっている「愛読者カード」、あれを出したことは、もうずいぶん前だが一度だけある。最近はああいうハガキも、個人情報保護の観点からつけにくくなった、という話をどこかで聞いた。個人情報ダダ漏れを気にする人が増えた結果、回収率が目に見えて低下してきたので、費用対効果を考えて見合わせるようになったということか。

 ところでその、ただ一度「愛読者カード」を投函したとき、実を言うと僕は、まったく「愛読者」ではなかった。その本は、鳴り物入りで創設された某新人文学賞の初代受賞作品だったが、僕はその作品にいくつかの点でとうてい許しがたいものを感じていた。加えて、当時僕はすでにプロの作家をめざしており、年間3回ほどはなんらかの新人賞に応募しつづけていたにもかかわらず、ときどき1次予選を通過するのが関の山だった。この作品がこんな栄えある賞を獲って、どうして自分の作品はいつまでも芽が出ないのか。そんなやっかみもあった。

 本を読み終えた僕は、怒りと苛立ちを抑えることができず、激情の赴くままに「愛読者カード」を手に取り、作品をボロクソにけなした上で即、ポストに走って投函した。いわく、「これと酷似した作品を挙げろと言われれば、枚挙にいとまがない。コミックの○○や××、映画の○○や××……。こんな作品を『絶賛』しているようなら、選考委員自身もお里が知れるというもの。もっとまじめに選考してほしい」。ひどい言い草だ。言うに事欠いて選考委員までけなしている。なんと恐れ知らずな。

 自分がプロになった今は、あんなものを投函してしまったことを心底後悔している。そのハガキが実際に著者のもとに転送されたかどうかは知るところではないが、もし僕自身がそんなハガキを受け取ったとしたら、自分のことは棚に上げて大激怒していることだろう。辛口の批評も甘んじて受けられるようでなければプロとしてはやっていけまいが、僕が送ったあれはあきらかに「辛口」を超えていた。

 そんなことを思い出して、中学生読者さんたちの誠意あふれるファンレターと引き比べつつ、恥じ入ることしきりの今日この頃だ。

 なお、後年、厚顔無恥なことに、僕はまさにその作品が受賞した文学賞に、満を持して自分の作品を送りつけ、みごと、箸にも棒にもかからずに落選している。語るに落ちたとはこのことだ。まさか、「愛読者カード」の内容からブラックリストを作成して、応募者の名前と照合しているわけでもあるまいが、罰が下ったのだと今でも僕は思っている。

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コメント

その後、その受賞者さんはご活躍されているのかどうなのかが気になるところです。

それと、ずっと忘れていたのですが、「シュガー通信」でご紹介したサイトの別エントリで、『ラス・マンチャス通信』の「畳の兄」を連想させるものがあったのを思い出しました。ついでにご紹介しておきます。(はてなブックマークの超人気エントリとなっていたので、すでにご存知かもしれませんが。)
http://www.so-net.ne.jp/vivre/kokoro/psyqa1087.html

投稿: ダレカ | 2007年1月25日 (木) 23時11分

平山さんは、激しいところがありますね(笑)。人は誰でもそうかもしれませんが。
実は、台湾に行った道中で『ラス・マンチャス通信』を読みました!面白かったですよ。1話目、2話目ぐらいまではその世界に入っていくことに多少の躊躇も感じましたが、後半は読むのをやめられなくなりました。
やっぱり、作家の顔を知っていると主人公”僕”というものにどうしても平山さんの顔を当てはめ、その性格に「あ、平山さんてこういう人なんだ」と思ってしまったりします。小説なのですから、創作の部分があるのも理解してますが、でも、主人公の激しい部分は、この前の『マニフェスト』とか、今日のブログに現れてますよね(笑)
本の感想はおいおい、またコメント中に織り交ぜますね(長くなりそうなので)

私はファンレターは書いたことありません。(読者カードも)
やはり”読まれないかも”ということを考えてしまい、だったら書いてもしょうがないやと思っちゃうのです。こうやって、私の書いたことにお返事がもらえるという得点つきだと、書きたくなりますね。現金な奴です(汗)
ファンレターは出してませんが、いつでも応援してますよ。

投稿: | 2007年1月25日 (木) 23時23分

> ダレカさん
うわ……。はてなからは最近全体的に離れ気味でしたので、このエントリも知らなかったのですが、すごいですね、これ。まさにリアル「アレ」というか。世界観的にも、あまりにあの状況や関係性に酷似していて、空恐ろしくなりました。
ちなみに、僕が「愛読者カード」で罵った人ですが、現在もコンスタントに活動されていますよ。ただ、くだんの受賞作以後、特定ジャンルに活動を限ってしまった感があり、一般的な知名度は実はそれほど高くないのではないかと思いますが……(これ以上は言いますまい)。

> 香さん
「ラスマン」読んでいただけたのですね、ありがとうございます。香さんがどう思われるのか心配だったのですが、そう読まれましたか(笑)。あまり言ってしまうと興ざめだと思いますのでほどほどにしておきますが、あの〈僕〉はたしかに、ある意味で僕自身の相似形だと思います。「激しい部分」についてのご指摘、正鵠を射ていますよ。
ところで、こうしてコメントを書き込んでくださるのも、それはそれで立派な「ファンレター」ですよ、もちろん! いつもありがとうございます。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年1月26日 (金) 01時15分

激辛愛読者カードですね(笑)
もし私が選考委員なら、クスクス笑ってしまうかもしれません。度を越えた怒りはかえって微笑ましいものです。反応がないよりずっと良いです。
オペラシティで今最も注目のヴァイオリニスト「川畠成道さん」のコンサート行ってきました。目の不自由な方なので視覚障害の方達がたくさん。盲導犬も5匹以上。みなさんおとなしく聴いてらっしゃいました。賢いゾ!

投稿: りりこ | 2007年1月27日 (土) 23時31分

そりゃあ、反応がまったくないことに比べれば!(と思わずわが身に引き寄せて考えてしまう。)
音楽は、視覚障害の方でも楽しめますから、そこがせめてもの救いですね。盲導犬は、以前、職場に通う間、決まった時間に駅で連れ歩いている方がいて、よく目撃しました。ホームの上で、並ぶ標識をちゃんと見分けてそこで止まり、電車が到着してドアが開いてから、ほぼ満員の車両に主を誘導して乗り込んでいくさまを見て、「賢いなぁ」といつも関心していました。コンサートにまで対応できるとは!

投稿: 平山瑞穂 | 2007年1月28日 (日) 01時23分

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