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2007年4月 5日 (木)

現金な黒猫

 月曜日に高田馬場の戸山公園でさささやかな花見をした。途中で、器量よしな黒猫が警戒しながら近づいてきた。2年前に同じ戸山公園のたぶん同じベンチで花見をしたとき、近寄ってきた黒猫に似ている。しかし、同じ猫だとしたら、サイズが小さすぎる気がする。しかも2年前に見かけた黒猫は、あきらかに孕んでいた。もしかして、あのときの猫の子だろうか。僕の経験から言うと、黒猫は必ず黒猫を産む。何匹か産んだ仔猫のうちの1匹は必ず黒猫なのだ。

 ビールのつまみとしてコンビニで買ってきた焼鳥はすでに食べてしまっていたので、おでんの具を小さくちぎって放ってみた。猫にとって特に興味のないはずのちくわぶ(炭水化物)でも、だしの匂いにつられるのか、けっこう食べている。玉子をちぎってやると、もっと喜ぶ。だんだん近づいてきて、警戒しなくなった。抱き上げて膝の上に乗せると、そのまま下りずに、焼鳥が刺さっていた串に鼻を近づけてクンクン匂いをかいだりしている。

 去年の11月に愛猫の無為を亡くして以来、リアル猫にリアルに触れるのは、考えてみれば初めてだ。僕は嬉しくってたまらなくて、何度も何度もその背中や頭を撫でてしまった。毛並みがいいので、どこかの飼い猫か、あるいは戸山公園周辺に棲息する地域猫なのだろうか。

 と思っていたら、その猫は突然、僕たちに向かってひと声、「にゃっ!」と鋭い声で鳴くなり、僕の膝から飛び降りて、50mほど先にある別のベンチに向かってまっしぐらに駆け寄っていった。見ると、ベンチには帽子をかぶったおじさんがいる。そのおじさんに対しては最初からまったく警戒していないようなので、もしかしたら地域飼い主の1人なのかもしれない。黒猫は、おじさんからもなにかをもらって嬉しそうにしていた。

 そうすると、最後のあの「にゃっ!」というひと声は、あえて日本語に翻訳するなら何だったのだろうか。

(1)ありがとう。もう行くね!
(2)おじさんが来たから、あっちに行くよ!
(3)おじさんが来たから、あんたらもういいや!
(4)てめーらろくなもんくんねーからつまんねーってんだよ! あっち行くぞゴルァ!

 ああ、(1)であってほしい。せめて、(2)であってほしい。しかし、真意は何であるにせよ、何も言わずに去ってしまうよりは感心だと言っていいのではないか。一応、挨拶らしきものを残して去ったのだから。

 その後まもなく、おじさんは去り、黒猫は、たまたま通りかかった若いカップルに対してしなを作っていた。なかなかたくましい、というか、現金な猫だ。そして、自分が可愛いということを十分に自覚したふるまいをしている。ように見えた。

『忘れないと誓った僕がいた』に、8ヶ月ぶりに増刷がかかった。じわじわと売れつづけているらしい。結局、僕はそういうタイプの作家なのかもしれない。実業之日本社向け書き下ろしのプロットについては、基本的にOKが出た。もう、書きはじめてしまってかまわない状態だ。しかし、今、そういう作品がいくつも並行している。時間をうまく配分しなければ。

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コメント

センセイ、その「ビール」は酒税法上の本当の「ビール」でした? それとも「発泡酒」「第三の生(新ジャンル)」でした?
一般の方はこれらの総称として「ビール」という言葉を使われますが、センセイの場合はどうなのかしらと思いまして。

投稿: ダレカ | 2007年4月 6日 (金) 01時12分

あ、そうだ。これを書き忘れました。
増刷、おめでとうございます。好きな作家さんだと、持っている本でもときどき書店で後ろをめくって「第○刷」って確認してしまいます。そのうち、確認してきます^^

投稿: ダレカ | 2007年4月 6日 (金) 01時13分

あ、僕はですね、普段は、法的な分類がどうであろうと社会通念上「ビール」っぽいものはすべて区別なく「ビール」と総称してしまう大ざっぱな人間なのですが、「花見のときはオーソドックスかつハードボイルドにキメるべし」というきわめてどうでもいいこだわりを持っているので、このときは明瞭に意識して「本当のビール」をあえて選びました。

刷り数っていうのは、なんとなく見ちゃいますよね。ただ僕の場合は、「ゲ、この本、こんな売れてんだ。ガーン……」となったりすることの方が多いわけですが(笑)。

ともあれ、ありがとうございます。こうして細々とながら生き長らえてまいります。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年4月 6日 (金) 01時54分

以前は動物が苦手だったのですが、最近は特に猫などを見ると「可愛いなあ~」と思え、触れられるようにもなってきました、小太郎です(どうでもいい?)。

突然ですが「冥王星パーティ」、拝読いたしました。私の場合、買っても読む時間が取れず床や棚に積んでいる本が大量にあるのですが、それらを救急患者並みの優先順位で飛ばして読みましたよ!(笑)
感想をあまり長く書くと、未読の方にもよろしくないと思いますのでできるだけ短めに書かせて頂きますね。

個人的に、「冥王星パーティ」は前3作のいいとこ取りをしたような作品だな、と思いました。
「ラスマン」のダークさ、「ワスチカ」の初々しさ、「シュガーな俺」のリーダビリティ。
これらが見事に融合し、三位一体の改革と申しますか(笑)、とにかく尋常でない化学反応をもよおされたのは確かだと思います。
「冥王星パーティ」という深遠なタイトルに平山さんが込められた意味も、私ではうまく言葉にできませんが感覚的には分かる気がします。難しいですね。
ともあれ、読了後は一流レストランのフルコースを食べきった後のような充実感を得ることができました、ありがとうございます。

今まで著作を読んできてふと感じたことなのですが、ラストに至るまでの爽やかな展開というのは、やはり平山さんの作風なのでしょうか?(こう書くとネタバレになっちゃうかな…)

次回作の方も差し障り無く進めておられるようで、読者としては楽しみでなりません。
どうかご自愛なさってください。
ああっ、やっぱり長くなってしまいました……失礼いたしました。どうやら私には物事をまとめる力が決定的に欠けているようです。

投稿: 小太郎 | 2007年4月 6日 (金) 04時09分

おはようございまーす。(^-^)
クロネコちゃんって、魔女の宅急便のキキみたいで
なんだかかわいいなぁと思ってみちゃいます。
うちは、犬を飼っていて、ネコって、あまり
触るきかいがないんです。
野良猫ちゃんたちは、やはり警戒心が強いせいか
呼んでもよってこないし。
でも、そうやって、えさを目当てだとしても(笑)よってきてくれるのは、
たまらなくかわいいですよね。
それにしても、④の台詞がおかしくって笑ってしまいました。(笑
わたしとしては、「またね!」だといいなぁ。

あとおくればせながら、いまネットで「忘れないと誓った僕がいた」を取り寄せ中です。
まだ読んでいなくってすみません。(汗
でも、たのしみー。

投稿: 果歩 | 2007年4月 6日 (金) 05時56分

> 小太郎さん
ER並みの破格の扱い、感謝いたします! 「前3作のいいとこ取り」、おお、なんと嬉しいお言葉でしょう。著者としても、前3作は自分の持つ資質のいずれかの部分がそれぞれ突出しており、その意味で読者を選んでしまっている嫌いがあるのかなと感じられる一方、「冥王星」ではそれらの資質を「統合」しえているのではないかと自負している次第です。「フルコース」、楽しんでいただけたのであれば幸いです。
「ラストに至るまでの爽やかな展開」ですか? いやいや、その程度ならネタバレには当たりますまい。結局のところ、「闇のないところに光はない」という僕の(エラそうな言い方をすれば)人生観みたいなものが、どの作品でも逆説的に反映されているということなのでしょう、たぶん。
ていねいなご感想、ありがとうございました。長くってもまったく問題なしです。むしろ嬉しいですよ! というか、僕自身、あれもこれもと欲張ってしまうせいか、短くまとめるのはヘタな方ですし(笑)。

> 果歩さん
いつも早起きですねぇ。僕は職場に行かなければならないのでしかたなしに起きてますが、それでも7時過ぎが精一杯ですよ。
黒猫は大好きです。「黒猫が前を横切ると不吉」とか言いますが、僕は「ラッキー!」としか思いません。そんな僕は逆に猫しか飼ったことがなく、犬とのコミュニケーション経験は少ないんですが、最近妙に、散歩に連れられてる犬などを道で見かけると、気になって見てしまうのです。犬も可愛いもんだなぁと。単に、飼い猫が死んでしまって「動物欠乏状態」になってるだけなのかもしれませんが(笑)。
そして、「ワスチカ」、注文してくださったのですね、ありがとうございます! そんな人たちに支えられて、じわじわ増刷中でございます。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年4月 6日 (金) 17時39分

平山さんお久しぶりです。コメント入れるたびにお久しぶりばっかりでご免なさい。
僕も先日、会社の連中と戸山公園で花見・・・の予定だったんですが、雨が降ってくるは仕事は忙しいはで中止となりました。
数年前に戸山公園で花見をした時、やはり猫が何匹かいて、僕らの方に寄って来たような気がします。僕は単なる人なつこい野良猫と思いましたが・・・。
今年は花見は無しかなぁ?
まあ、明日か明後日でも愛犬メルと近くの公園にでも行ってみるか。もうほとんど葉桜だろうけど。
そうそう、「冥王星パーティ」は先週買ってあります。自宅のPCが壊れて買い換えたりしていて、移行作業をちょこちょこやっているので、本を読む暇が全くありませんで・・・まだ、読んでません。読んだらまたコメントします。

投稿: クマキチ | 2007年4月 6日 (金) 18時35分

冥王星パーティー、ついに読み終わりました!!ああ、素敵な話でした。ああ、たくさんお話したいことがあります。
今日はとっても忙しい(明日は友達の結婚式二次会の幹事)ので、こんどゆっくり感想をしたためたいと思います。

黒猫、私も好きです。見たら不吉なんてとんでもない!なぜか黒猫はビロードのように一番毛並みが良く見えてしまうので、高貴な感じがしますよね。
私もかなり前に、野良猫なのにまるっきり人を怖がらない猫に遭遇しました。やっぱりかなりの器量よしでした。
あの器量のおかげで、たくさんの近隣住民からえさをもらい可愛がられてたんだろうなぁと推測。処世術ですね。

投稿: | 2007年4月 6日 (金) 20時58分

> クマキチさん
たいへんお久しぶりです。なんとなく、クマキチさんはもう、永遠に立ち去ってしまわれたのではないか、とさびしく思っておりましたので、そうではないとわかってとても嬉しかったです。そして、お忙しい中、「冥王星」も買っていただけていたのですね、ありがとうございます。
それにしても、以前からそうですけど、クマキチさんとは活動エリアがかなりカブってますね。本当に、何度もすれ違っているかもしれませんね。
メルくん、お元気でしたか。うちはまだまだ無為の喪が明けておりません。猫を見るとすごく飼いたくはなるんですけどね。
では、本を読まれてのコメントを楽しみにお待ちしております。

> 香さん
幹事業、お疲れさまです。とりあえず、好反応であったということはわかり、安心いたしました。感想はどうぞお手すきのときに!
黒猫は、昔実家で飼っていたことがあります。餌付けしているうちになんとなく家猫になってしまったんですが、やがて子を産み、1匹だけ生き残ったのがまた黒猫だったのです。そんな立場で「不吉」なんて言ってられませんよね(笑)。
それにしても動物は、自分が可愛いということをどうやって知るのでしょうか……。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年4月 7日 (土) 17時00分

「にゃっ!」は「おっ 常連さんだ! ちょっとごめんなさいよ オニーサン 」って意味ね きっと(笑)
冥王星パーティー 二度目はゆっくり味わいながら読ませていただいてます。
ところで・・・平山さん 今この世からいなくなってしまいたい精神状態なのです。気分転換に夜桜見物に行ったら、幻想的過ぎて余計に精神状態悪くなってしまいましたわ。昼にいきゃ~よかった。

投稿: りりこ | 2007年4月 7日 (土) 21時48分

おお、りりこさん、さすがですね。なんだか一番しっくり来る台詞を……。「冥王星」、じっくり読まれた感想をいずれ言っていただけると嬉しいです。
ところで、どうなさったんですか? この世からいなくなってしまいたいだなんて! 明日にでも明るい陽射しの中での桜を見て(と言ってももうかなり葉桜でしょうけど)気分を持ち直してください。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年4月 7日 (土) 23時23分

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