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2007年5月24日 (木)

過ぎ去りし時代の愛機

 燃えないゴミをまとめて、マンション共用のゴミ部屋(本当は何と呼ぶのか知らない。部外者が立ち入らないように施錠した部屋状になっているのでこう呼ぶ)に捨ててくる。

 独身時代に僕が買って、とっくに使わなくなっていた古いVHSのビデオデッキも一緒に捨てる。新卒で入ったパソコンソフトの会社を1年3ヶ月で辞める直前に、自由になるお金があるうちにという思いで買ったものだ。たしか2万円強で、並み居る機種に比べれば格段に安かったが、それでも当時の僕にはかなり思い切った出費だった。幸いなことにそのデッキはたいへん性能がよく、録画もきれいだったし、一時停止ボタンを押すとまるでデジタル画像のように鮮明な静止画をキープしてくれた。

 安かったのは、ソニーやパナソニックじゃなかったからだ。とにかく録画と再生ができて、なるべく安いものであれば、あとはぜいたくを言わないという方針で選んだ。聞いたことのないメーカーだったが、買ってからふと気になって「四季報」で調べてみたら(まだネットなどない時代だ)、ちゃんと東証一部に上場している。ただ、販売拠点がどうやら東南アジアやアメリカなど海外にあるらしく、国内ではほとんど知られていないようだった。実際、その後、そのメーカーの名を口にしても、たいていの人は「知らない」と答えた。

 安くても、日本では無名のメーカーでも、僕はこのデッキをとても気に入っていたし、愛用していた。しかも、いつまでも快適に使える。使いはじめて1年もするとなぜかどこかしらに不調がでてきて、修理に出してもまたすぐに別の問題が発生し、そのうち「買い替えた方が安上がりだ」という結論に至ってしまう一連の有名メーカー商品などより、よっぽど優秀(あるいは良心的?)だ。

 だからこのデッキには愛着があって、その後DVDつきの新しいものを買っても、なかなか捨てる気になれずにいた。最近、ハードディスクレコーダーつきのものを手に入れたので、やっと、もう処分しようという気持ちになれたのだ。ゴミ部屋の「燃えないゴミ」のコーナーに置いたとき、ちょっとせつなくなった。自由になるお金が乏しい中で、数奇な運命のもとにめぐり会った愛機。今まで、よく働いてくれてありがとう。お疲れさま。

 部屋に戻ってから、そのメーカーについての認識が間違っていなかったかどうか裏を取ろうと思って、たまたま手元にあった2006〜07年度版の「四季報」をひもといてみたが、なぜか索引にその社号が見当たらない。この十何年の間に社名変更したのだろうか。そう疑いながらネットで検索してみたら……。

 [PDF]シントム株式会社に対する債権の取立不能のおそれに関するお知らせ

 ああ、そんな……。そう、そのメーカーとは、「シントム」だった。2002年9月に上場廃止となり、2006年に破産してしまっていたらしい。まったく知らなかった。あんなに優秀なデッキを、あんなに良心的な値段で売ってくれるいい会社だったのに……。愛機を手放すこととあいまって、せつなさがいやましに高まってしまった。まちがいなく、ここでもひとつの時代が終わりを告げたのだ。

 このことをブログに書こうと思った時点で初めて、愛機の画像を撮っておくのだったと悔やんだ。今からゴミ部屋に舞い戻って、袋の口を開けてデッキだけ取り出し、画像を撮ってくる気持ちにはさすがになれない。それでも僕は、あの優秀なデッキと「シントム」の名を、決して忘れないだろう。

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コメント

画像見たかったです!!

はじめましてー。
なのに、いきなり叫んですみません。でも何か、すっごく見たかったですシントムくん。二週間くらい前からブログ読ませていただいてたのですが、今日はどうしても叫びたくなって、初コメントさせていただきました。
めちゃくちゃ照れ屋なのでコメント残すことはあまりないと思いますが、これからも楽しみにブログ読ませていただきますm(__)m

あ、あと私は「冥王星パーティ」を読んでファンになりました!
新聞に載っていた広告を見て、この本読まなきゃ!と思いまして…。とっても面白かったです(≧∇≦)!!(タイトルも好きだし本の装丁も好きです!)他の著書もぜひぜひ読ませていただきますっ。では、長々と失礼いたしました。

投稿: 夏の友 | 2007年5月25日 (金) 00時54分

叫んでくださってありがとうございます(笑)。これでシントムくんも心置きなく成仏できるでしょう……(シントムってもともとは「新東京無線」だったみたいですね)。

さて、『冥王星』から読んでくださったのですね。しかもあの新聞広告に反応してくださったとは! 小さな目立たないスペースでしたし、「いったい全国で何人の人がこれに目をとめてくれるのだろう」と心もとない気持ちだったのですが……。それに、このブログでもときどき書いているのですが、あれはなんだかちっとも売れてないのですよ(笑)。だから、それを気に入ってくださったと聞くととても安心します。
ただ、あれが既刊4作の中で最も「普通の」小説なので、遡って他の作品を読まれたときどういう感想をお持ちになるかイマイチ読めないんですけど、どうぞよろしくお願いいたします。コメントも、ときどきは残していってくださいね!

投稿: 平山瑞穂 | 2007年5月25日 (金) 01時32分

おはようございまーす。(^-^)
愛着のあるものってなかなか捨てられないですよね。
なんとなく、一緒にがんばってときをすごしてきた
相方みたいな。。。なんていうと大袈裟かもですが。(^-^)
新しいものは、それはそれで便利だし大好きなのですが
使い方がわかるまでの苦労がいやだったりします。(汗
平山さんの「シントム社」のデッキ、はじめて名前知りました。
安くて、しっかりしたよい商品を作る会社がなくなるって悲しいかんじがしますね。

あと、香さんに教えていただいた、スパムのお料理作ってみようって思ってます。(^-^)
ありがとうございます!

投稿: 果歩 | 2007年5月25日 (金) 06時29分

このブログを読んで、すごく切なくなりました。貧乏な新社会人のなけなしの金で買ったAV機器、そしてその丈夫な機器を作っている会社の倒産・・・・。胸がキュンとなりますね。

私は初めてのボーナスで、テープのダブルデッキにCDが付いている物を買いました。
CDは今でも使えますが、テープの録音の方は既に使用できなくなり、再生専用の方もオートリバース機能が死んでます。それでも毎週末、私がCDを聞き、彼が今年の1月に実家から持ち帰った5,60本もあるだろうカセットテープを順に聞いています。
平山さんのこのブログを読んで、「ああ、もうちょっとその貴重さを意識して使ってみよう」と思いました。

シントム、確かに聞いたことがありませんね。日本の電機メーカーは何年でも持つ丈夫なものを作れるにもかかわらず、売れないと会社が立ち行かなくなるから、わざと数年で壊れるように作っていると聞いたことがあります。
シントムのような良心的なメーカーが破産に追い込まれる間違った世の中なのですね、今という時代は。

投稿: | 2007年5月25日 (金) 10時34分

果歩さんへ
スパムは、油を引かないフライパンでちょっと焼いてから”炊き立てご飯”に乗せた方が脂が溶けて、よりおいしいですよ。

投稿: | 2007年5月25日 (金) 10時39分

長年、使ったんですから愛着ありますよね。
最近では、電化製品は回転を良くするため、あえて耐久性を低くしているのだとか。
それと、修理も受け付けなかったりします。
要は、「買ったほうが安い」ってことですよね?それってなんだか、押し売りくさい。
部品なんか、すぐ製造停止になるし。
我が家では、炊飯器の代替わりに苦心しました。
思えばいい奴でした。
炊き上がると「アマリリス」を一節、奏でてくれるのです。ご飯に、ありがたみがありました。
今の電気ジャーは、きまぐれです。
炊き上がりが日によってちがう。そんな時、「アマリリス」の調べを思い出します。

生き物でもないのに、変ですね。

投稿: 榊 | 2007年5月25日 (金) 21時26分

> 果歩さん
特に、若い頃に買ったものとかは愛着もひとしおですね。今はそこそこ収入もあり、よっぽど大きな買い物でなければあまり迷うこともないのですが、そうなるとあまり大事にもしなくなってしまったりして……反省しています。
「使い方がわかるまでの苦労」、よくわかります(笑)。取扱説明書を読むのってどうしてあんなにめんどくさいんでしょうか。

> 香さん
そのCDラジカセ、めちゃくちゃ「現役」じゃないですか! 香さんと彼の両方でフルに使いまくってますよね。いや〜、むしろ僕の方が見習わなければなりませんね。
初ボーナスで買ったのは何だったかな、ヤマハのおもちゃみたいなキーボードだったかな、自動伴奏機能つきの。その後PCとシンセサイザーを買ったので用無しになってしまったのですが。あれももっと大事にしてやればよかった……。
ところで、「わざと数年で壊れるように」って、あれ、やっぱほんとなんですかね。都市伝説かなと思ってたんですが、シントムが最後までなんの問題も起こしていない一方、名のあるメーカーのやつは軒並み数年で使えなくなっているので、ほんとなんだとしか思えなくなってしまいました。

> 榊さん
そうそう、修理、断られることがありますよね、メンテ要員がいなくなってしまったからとかいう理由で。「サポートセンター」とかいってもちっとも「サポート」してないじゃん、と思います。最近も、2年前に買ったハンディカメラをテレビにつなぐケーブルをなくしてしまったのでそれだけ書い足そうとしたんですが、それさえもう手に入らなくなっているのですよ。
「アマリリス」の炊飯ジャーは、愛されて幸せな一生だったのではないでしょうか(笑)。長年使っていると家具や食器にも命が宿るといいますからねぇ。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年5月26日 (土) 18時52分

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