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2007年5月 8日 (火)

今回はご縁が

 妻が疲れ切っていてごはんを作れないというので近くのイタリアンの店に行く。ああいう店はえーとなんていうのかな、「イタリアン居酒屋」? なんか違うな。まあとにかくそういう店に行く。もう10年越しで通いつづけている店だが、久々に行ったらスタッフがほぼ一新されて平均年齢が若くなっている。自分が歳を取ったことを実感した。

 さて、その帰り道、なんのかげんか、僕の就職活動中の話になった。システム・エンジニアを目指していた頃の話だ。T京電力系のシステム会社の、SEとしての適性テストを受けた。バブルの真っ盛りで、なおかつ「2001年には情報処理技術者が27万人不足します」とかいう神話がまかり通っていた時代だ(その算定基準は?)。

 しかし、結果を教えてくれることになっていた日になっても、連絡が来ない。たぶんダメだったのだろうなと思いつつ、2、3日様子を見てから、一応電話をかけてみて、結果がどうだったのかを訊いてみた。電話に出た女性が、すごく申し訳なさそうな口ぶりで、「あのう、今回はご縁がなかったということで……」と言った。

 ちなみに、SEの適性テストというのは、今はどうだか知らないが、当時はごく簡単な計算問題みたいなもので、それで「不適格」と見なされて落とされることは普通ありえないと言われている。僕の場合、その時点ではまさにその適性テストしか受けていなかったわけだから、よっぽと適性がなかったものと見える。

 そのテストに落とされたという事実が信じられず、また受け入れがたかったということもあったのだろうが、それ以前に僕は、こういう場合における社交辞令とか決まり文句といったものに、驚くほど通じていなかった。「今回はご縁がなかった」ということは、「次回はご縁があるかもしれない」ということなのだろうか。「次回」というのはいつあるのだろうか。一瞬、そんなことを本気で考えてしまった。

 しかし、僕がそこで、「では、“次回”のチャンスはいつなんでしょうか」といったマヌケきわまりない質問を彼女にせずに済んだのは、ひとえに、彼女があまりに申し訳なさそうにそれを言ったからに尽きる。こんなに申し訳なさそうにしているということは、要するに僕は不採用ということなのだな、ということがさすがにわかったわけだ。いくら世間知らずでも。

 日本語はそうした婉曲語法みたいなものが非常に発達した言語だ。それについてとやかく言う人もいるし、その言い分も理解できるのだが、これはこれで優れた文化なのではないかと僕は思っている。ただ、それが有効に機能するためには、両者の間で同じ認識がコードとして共有されていなければならないわけだが。

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コメント

私も、バイトの人たちを「若い」と感じて、同時に自分の年を感じることありますね。昔は高校野球の球児でさえ”おじさん”にみえていた時代があったのに!?今ではプロ野球選手でさえ同じ年代以下になってしまったという事実。

システム・エンジニアを目指されてたんですね。でも、そうしたら作家と兼業は難しかったかもしれないので結果オーライですね。

平山さんが「今回は、ということは次回はあるんでしょうか?」といったエピソードなのかと思って、ドキッとしてしまいましたよ。ははは。
確かに日本語は難しいですよね。
婉曲な言い回しで相手の真意を汲み取りあわないと、会話がかみ合わなくなりますしね。
ちょっと話がずれますが、この前もテレビ番組で若者が、自分に言われた敬語を違う意味にとってトンチンカンな答えをしていたことがありました。(ああ、爆笑したのに、その言葉を思い出せない自分がもどかしい!)
だんだん、婉曲語法というのも通じない時代が来るのではないかと心配になります。

投稿: | 2007年5月 9日 (水) 00時42分

各界で活躍している人たちが自分より年下であるということを認識した瞬間ほど寒々しい気持ちになることはありませんよね。
SEにはならなくてほんとによかったと今では思っていますが、同時に、今だったらけっこう適性があるんじゃないかと思ったりもするのですよ。僕はもともと論理的に考える方なのですが、当時はその論理を数式に置き換える訓練ができていなかったというだけの話で。でもやっぱり、早いうちにその適性が発揮されなくてよかったと思っています。あくまで結果論ですが。
婉曲語法ですが、古い流儀に則ったそれは着実に廃れつつあると思います。でも、今の若い人たちに特徴的な「言い切らない」「語尾上げ」なども、一種の婉曲語法なんじゃないかと思います。お国柄として、なんらかの形でそれは生き延びていくんではないかと。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年5月 9日 (水) 01時44分

そういえば。援助交際なんてコトバも、新手の婉曲表現として随分叩かれましたよね。「そんなコトバを使わずに、売春とハッキリ言えばいいじゃないか」的な主張もありました。が、しかし。冷静に考えてみれば「買春」も立派な婉曲表現ではないかと。世代は違えども、ニーズは変わらず……なんて思います。

投稿: もり | 2007年5月 9日 (水) 03時32分

おはようございまーす。
『ご縁が・・・』という台詞は、
なんだか、お見合いのシーンでしか思いうかば
なかったんですが、こうゆう時にも使うんだぁ・・・と
あらためて思いました。
それに平山さんの『では、次回のチャンスはいつ・・・』というのも
たしかに、そう聞いてみたいと思ってしまいました。(^-^)

それと、平山さんもコンビニ経験があったなんてびっくりです!
わたしは、今のコンビニの仕事がすごく好きなので、
けっこうイキイキ働いてます。(^-^)
今日もこれからバイトです。いってきまーす!

投稿: 果歩 | 2007年5月 9日 (水) 07時50分

日本語の言い回しって、難しい。と思っている人が私以外にいて嬉しいような。
いや、私は極端に対話能力に欠けているらしく、「言っていることが分からない」とかえされることもしばし。平山さんとも、最初のうちは空回りな返答をしていましたものね。ごめんなさい。
日本語は、そのものズバリをいうのは美徳とされず、相手の心を読む(!)技術を磨くものだと思っています。
でも、かえって遠まわしな言い方をされると傷つくこともありますし。難しいですね。
平山さんは今のお仕事と執筆に、適性があるのですから、よいではありませんか?いまだ適性が見つからない身からすれば、羨ましいですよー。

投稿: 榊 | 2007年5月 9日 (水) 20時41分

 「世の中で常識的になっている婉曲的な言い方」と言うと、思い出すことがあります。

 若い頃、男の人に「お付き合い」を申し込まれたとき、「お友達として付き合いたい」と答えて、その後、音沙汰なしになったことが何回かありました。
 私としては「結婚相手としてふさわしいかどうか判断するには、まずお友達として付き合ってみてから・・・」と、肯定的な意味だったんだけど、世間的には「ただのお友達としてしか考えられない、それ以上としては、お断りでーす。」と受け取られると気づいたのは、ずいぶん経ってからでした。

 もう一つ、これは友人の話ですが、初めてのデートで、夕日の美しい海に行き、「もう帰ろうか」と言うボーイフレンドに、「まだ帰りたくない」と答えて、危うくホテルに連れて行かれそうになり、逃げて帰って来たという話。
 友人は、単に美しい景色をもう少し眺めていたかっただけなのですが・・・・。

投稿: シュガーズワイフ | 2007年5月 9日 (水) 20時44分

> もりさん
売春系には、「売春」それ自体も含めて、昔からいろいろ婉曲表現がありますよねー。しかし「援助交際」という語は、行為自体の是非は別として、「うまい言い方を考えるもんだなー」といたく感心した覚えがあります。それが「援交」と縮約され、すぐに廃れていく。でも行為のニーズ自体はたぶん絶えることがないので、また誰かが別の婉曲新語を考案していくのでしょう。

> 果歩さん
バイト、お疲れさまです。
「今回は」ってところがクセモノなんですよね。でも僕自身、以前職場でパートさんの募集をしたとき、選考の結果不採用になった人に通知を送る際、「残念ながら今回は見合わさせていただくことに……」みたいな表現を使いつつ、「便利だな、これ」と思いました(笑)。断る側としては、「あなたがダメと言ってるわけじゃないんですよ、ただ、“今回は”たまたま、条件が合致しなかっただけなんですよ〜」とニュアンスを和らげる一語としてこれが必要なのかなと。

> 榊さん
「相手の心を読む技術」、なるほど! それが文化として根づいていて、その表現形態のひとつが婉曲語法ということなのかもしれませんね。遠回しな言い方で相手がかえって傷ついたとしたら、それは「心を読む」ことに失敗しているということなのでしょう。完璧にできる人なんていないでしょうけど。
適性、まだ見つからないって、「人生まだまだこれから」と逆転させて考えてみてはどうでしょう?(笑)

> シュガーズワイフさん
2つとも、おもしろいです(笑)。
シュガーズワイフさんの場合は、「まずはお友達から始めましょう」と答えるのが「正しい」返し方だったのかもしれませんね。それでも、交際を申し込んだ側にとっては「ガーン」という感じかもしれませんが。
ちなみに僕も、昔、ある女の子に告白をして、「友達でいようね」と言われたことがありますが……うーん、やっぱり、コタえますね、どういう言い方をされようとも(笑)。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年5月 9日 (水) 21時33分

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