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2007年7月11日 (水)

取材のお礼

 今日は、あるきっかけで知り合った人に、執筆の材料としていくつか訊きたいことがあったので、あつかましくも取材のお願いをして、いろいろと話を聞いてしまった。

 作中で取り上げることについて取材が必要だと感じたときに、「誰に訊くか」というのは非常に頭の痛い問題だ。今回のように、比較的身近に訊ける相手がいればまあなんとかなるが、知り合い関係にそのこと(特定の業界・仕事の具体的内容など)を知っている人が1人もいない場合は、人づてに適任者を探すか、ともすればまったく縁もゆかりもない人に飛び込みでお願いせざるをえなくなる。

 もっとも、今はまだラクなのだ。曲がりなりにも作家の肩書きがあるから。仮に相手が作家としての僕をそれまでは知らなかったとしても(悲しいことに往々にしてそうなのだが)、作家であるという事実に偽りはなく、そうすると相手もわりと協力的になってくれる。アマチュア時代は、それさえないのがつらかった。

 それでもかつて、もう12年ほど前だが僕は、当時住んでいた実家の近所の写真館に、飛び込みで取材のお願いをしたことがある。写真館を舞台にした小説を書こうと思っていたからだ。自分は実は作家を目指して小説を書いており、今回こういう趣旨でこんな小説を書いて、どこそこに応募するつもりでいるので、できれば話を聞かせてほしいと率直に頼んだら、忙しい中、そこの店主さんは2時間くらい割いてくれて、僕の細かい質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれた。

 せめてものお礼に、と持参したウイスキーの瓶を手渡そうとしたら、「出世したら持ってきてくれればいいから」と言って、受け取ってくれなかった。

 僕は彼から聞いた話を自分なりに最大限に生かして写真館の物語を書き、B賞に応募したが、その作品は1次予選にも通らずに敗退した。せめてそれが受賞して本になってくれたら、晴れ晴れとした気持ちであらためて彼のところにお礼に出向けたのに。

 さて、今現在の僕は、「出世した」と言える状態だろうか。一応、プロの作家にはなったものの、まだまったく無名だ。あらためてお礼に行かなきゃと思いながらなかなかそれが果たせずにいるのは、自分のあまりの無名さが引け目になっているからなのだ。しかしこういうことは、先延ばしにしていると結局そのまま機を逸してしまい、後で(たとえば、その店主さんがすでに亡くなっていたと知ったりして)ひどく悔やむことになるのがならいだ。

 へんにもったいをつけず、せめて今年中を目標にして、ふらりと訪れてみようかと思っている。既刊の4冊の小説に、ちょっとした贈り物でも添えて。

 小学館「IKKI」での連載『魅機ちゃん』第1回と、同じく小学館での書き下ろし『株式会社ハピネス計画』の両方が、今日、相前後して校了となる。8月発売の「メフィスト」掲載のエッセイも、ゲラが出ている。しかし、今月末発売号に掲載されるものと思っていた「SFマガジン」向けの短編が、諸事情で9月発売号掲載になっていたと知って、ショックを受ける。

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コメント

作家になるということは、取材力も必要なんですよね。自分の頭の中にあることを書くだけじゃなく、自分の知らない分野は緻密に描くために取材をしなければいけないというのが大変そうです!
多大な好奇心と、人の話を正しく理解する認識力が必要そう・・・。

山崎豊子が『大地の子』を書くために400人(でしたっけ?)の中国残留孤児から話を聞いた(取材した)というのを聞いてからというもの、本を読みながら「この作家は、○○のところに取材に行ったのかな?」とか考えながら読むようになってます。

その写真屋さん、いい人ですね。知らない人からの依頼に、時間を割いて、ぞんざいにせずに対応できる人というのは素晴らしいと思います。早く御礼に行けるといいですね!きっと平山さんの夢が叶ったことを喜んでくれますよ。

投稿: | 2007年7月12日 (木) 15時55分

あら~、楽しみが先に伸びましたね。
でも、『株式会社ハピネス計画』も発売されますし、ちょっとずつ小出しになるのがいいのかもしれませんね^^

そのご親切な写真館、いまでもあるといいですね。(うちの方の田舎ですと、お店の類はどこかのショッピングセンターに入ったり、郊外の駐車場スペースが広く取れるところに移転しないとやっていけないようです。)

投稿: ダレカ | 2007年7月12日 (木) 17時43分

> 香さん
人の小説を読んでいて、なにか特定の分野についてものすごく詳しくリアルに描かれていたりすると、僕は同業者として焦りを感じたりしますよ、この人いったいどうやって調べたのかな、自分が同じことをしようとしてできるだろうかって。
写真館の人のときは、こっちもまだ不慣れでしどろもどろだったと思うんですが、とてもいい人にめぐりあえてラッキーでした。それでも、最初に声かけた別の写真館の人には「いやー、自分、しゃべるの苦手だから!」と言下に断られちゃったんですよ。懐かしい思い出ですが。

> ダレカさん
あ、そうです、僕も「全部いっぺんだとあっけないしな」と自分に言い聞かせて納得することにしました(笑)。特に、「ハピネス計画」が出たら今年はもう本を出せないと思いますので……。

写真館ですが、そうです、最も恐れているのが、なくなっちゃってるんじゃないかってことで。特にDPEってここ数年でものすごく需要が減っちゃったんじゃないかと思うんですよね。早めに確認しておきます。

投稿: 平山瑞穂 | 2007年7月12日 (木) 21時30分

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