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2010年5月18日 (火)

死に際のひとこと

 岩明均のコミック『寄生獣』が比類のない傑作であることは衆目の一致するところだろうが、これのコミックスの第1巻が出てからすでに20年の月日が流れていると気づいて少々愕然としている。「月刊アフタヌーン」連載中から夢中になって読んだ作品であり、今なおコミックスを処分できずにいるもののひとつだが、自分としては、「ちょっと前に」熱心に読んだ、という程度の感覚だったからである。

 ところで最近、ふと気が向いてこれをまた全巻読み直してしまったのだが、そのときあらためて気づいたことがある。この作品は、キャラクターの「死に際のひとこと」がたいへん印象的なのである。

 たとえば、主人公・新一につきまとう不良っぽい女子高生・加奈。パラサイトに胸をひと突きされてまもなく新一の腕の中で息を引き取るが、最後に彼女はこう言う。

「フフ…………はずかしくて…………とても人に言えない夢…………」

 図らずもパラサイトの謎を追うハメになり、妻と子どもを惨殺されたあげく自分も殺されることになったうだつの上がらない私立探偵・倉森の最後の台詞はこれだ。

「……陽子……由美……すまなかった…………すぐ行くよ……赤ん坊を……殺さなくてよかっ……た」

 圧巻は、美女の姿で女言葉をしゃべりながら人間との共存の可能性を探り、「実験」と称して人間の赤ちゃんを産み育てるうちに、その赤ん坊に理屈で説明のつかない愛着を覚えるようになったパラサイト、「田村玲子」の死に際だろう。警官たちの発砲の嵐にあえて反撃せず、胸に抱いた赤ん坊を守ることに徹して凄絶な最期を遂げるとき、彼女は新一に向かってこう言うのだ。

「…………この前 人間のまねをして………… 鏡の前で大声で笑ってみた………………なかなか気分が良かったぞ…………」

 それぞれ、こうして台詞だけ切り取ってもピンとこないかもしれないが、いずれも前後の文脈に照らして非常にドラマティックで秀逸な「最後の言葉」なのである。僕は自分の小説の中であまり人の死を描かないが、その機会が訪れるとしたら、おおいにこれに学びたいところだ。

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