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2011年2月25日 (金)

研ぎすまされるニュアンス

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 夕方、ベッドに寝そべって、蒲団はかぶらずに本を読んでいたら、クーが知らぬ間に音もなく枕元に来ていた。特に気にせずに本を読みつづけていたら、手の先で僕の肩を「カリ、カリ」と軽く引っかいた。

 通常ならそれは、蒲団に入って眠っている、あるいは寝ようとしている僕に、「蒲団の中に入れてくれ」と催促するときの仕草である。しかしそのとき僕は、蒲団をかぶっていなかった。かけ蒲団の上に体を横たえていたのだ。

 ためしに蒲団を自分の体の上にかけ直した上でその縁を持ち上げ、クーが入れる程度の隙間を空けてやったら、なんのためらいもなくススス……と中に入ってきて、一緒に寝るときにいつもそうするように、僕の右の腋の下に顔を埋めて丸くなった。

 ということは、クーのそのジェスチャーは、厳密には「蒲団の中に入れてくれ」ではなかったのだな、と気づいた。より正確に翻訳するなら、たぶんそれはこうなる。「一緒に蒲団の中に入ってくれ」。

 これはまさに、ガイドもなく未知の言語を習得していく過程と同じだ。

 たとえばジョン万次郎が、最初は「切る」="cut"だときわめてざっくりと覚えていたとする。しかし彼はやがて、経験を通じて自分の中のその語釈を補正する機会を繰り返しながら、同じ「切る」でも"slice"、"rip"、"shred"、"split"など、様態の微妙な違いからそれぞれ別の単語が割り当てられていることを知ることになり、その分だけ"cut"のニュアンスの精度を自分の中で研ぎすませていっただろう。

 しかし残念なことに、猫が駆使する言語はきわめて限定的で数も限られている。おそらく、全部数え上げても10種類あるかないかだろう。僕としては、クーが低い声で「んー」と言うときと、濁った声で「ギー」と言うときの違いがどこにあり、それぞれが正確にはどういうニュアンスを担っているのかを、飼っている間には解明したいと思っているのだが。

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