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2012年1月24日 (火)

謝罪の過去形

 ある韓流ドラマを観ていたら、"정말 고마왔어"(チョンマル・コマワッソ)という台詞に対して、「今までありがとう」という字幕が付されていて、なるほどと思った。

「チョンマル・コマワッソ」は、直訳すれば「本当にありがたかった」くらいの意味である。「コマワヨ」が「ありがとう」だという程度のことは、旅行者向けの例文集にも載っているのではないかと思うが、「コマワ」の部分はもともと、"고맙다"(コマプタ)すなわち「ありがたい」という意味の形容詞の活用形である。これに「ッソ」という過去を表す接辞がついた形が「コマワッソ」なのだ。

 日本語の「ありがとう」も、元来は「ありがたく存ず」あるいは「ありがたく候」あたりから派生した表現だろうが、成句としてあまりにも定着してしまっているので、それ自体を過去形にするのはなじまない。「ありがたかった」と言う場合もあるが、なにやら仰々しい感じになってしまう。

 そういうとき、日本語話者が普通どう言うかというと、やはり「今までありがとう」だろう。「今まで」の部分によって、過去あるいは現在完了のニュアンスを添えた上で、成句としての「ありがとう」を使っているわけだ。

 一方、日本語でも、「すみません」については、「すみませんでした」というれっきとした過去形がある。しかし、「ごめんなさい」の過去形はない。本来の意味合いが形骸化しているとはいえ、文法的にはあくまで「免じてくれ」=「許してくれ」という命令形であることがその原因だろう(原理的にいって、命令形に過去時制はありえないから)。もしもこれを、意味を汲みつつ「ありがたかった」的にむりやり過去形にするとしたら、さしづめ「許してほしかった」とでもなるだろうか。

【用例】
「昨日の帰りがけ、倉庫の施錠を忘れたのは君かね?」
「許してほしかったです!」

 なんだか必要以上に言い訳がましく聞こえる。やはりこれは、実際の会話では使えまい。

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