« 夢で出会うなんの変哲もない人々 | トップページ | a privileged creature »

2012年11月27日 (火)

解読されたカードの文言

 興味がない人にはまったく興味がないであろう、オランダ語ネタの続き。

 僕は2007年の夏に、ベルギーとオランダを訪れている。ともにオランダ語を話す国だが、当時はまだこの言語を勉強していなかった。だから、他の多くの人々同様、僕もまた、看板等を見るたびに、aaとかijといったなんだかものすごく見慣れない、よそよそしい感じのする綴りに恐れをなし、心細い気持ちになっていたものである(ちなみに前者は文字どおり「アー」、後者は通常「エイ」と発音する)。

 そんな中、ブルージュを訪れた際、ホテルの近くにたまたま市が立っていて、なんとなく、カードを何枚か購入することになった。誕生日を祝うカードなら自分でも使う可能性が高いので、それを探そうと思った。

 カードに印刷されている文言は、当然、大半はオランダ語である。まったく読めないのだが、なにかヒントは見つかるはずだと思った。ふと、猫の写真を背景にHartelijk Gefeliciteerd Verjaardag!と書かれたカードが目に留まり、これはきっと誕生日用のカードだと直感した。

 この直感にはなにか理由があるはずだと考えて、その謎の文言を眺めているあいだに、いくつかのことに気づいた。

 Gefeliciteerdの中のfelicitの部分は、英語のfelicitate(祝う)に似ている。そして、Verjaardagに含まれるjaarは、半端に知っているドイツ語のJahr(年、発音は「ヤール」)に似ている。さらに言うなら、それにくっついているdagは、英語のdayと、同じ意味のドイツ語Tag(ターク)を足して割ったような綴りだから、きっと「日」という意味だろう。

 この文言が、「年」に関わるなんらかの「日」を「祝う」内容であることはほぼまちがいがない。唯一気がかりなのは、それが誕生日ではなく、新年を祝う内容であることだったが、それはたぶん違うだろうという推測は立っていた。

 というのも、「新年」は英語ではnew year、ドイツ語ではNeujahr(ノイヤール)である。オランダ語だって両者と近縁の言語なのだから、「新しい」はきっと、newなりneuなりに近い綴りにちがいない。それが含まれていないということは、これは「新年」とは無関係な「年」を祝う文言であるはずだ。そう考えたのである。

 こうして僕は、そのカードを「誕生日のカード」と断定した上で購入したのだが、日本に持ち帰ってから長いこと、実際に使用する機会はなかった。というか、やはり文言に確信が持てないので、積極的に使う気持ちになれずにいるうちに、存在自体を忘れてしまっていたのだ。

 何年か経って、ふと引き出しの中にそのカードを見つけたとき、「おおっ!」と思った。その時点では、僕はオランダ語をいくぶん勉強していて、かつては謎だったその文言もスラスラ読めるようになっていたのである。そして僕は、自分の推測が間違っていなかったことを確認することができた。

 Hartelijk Gefeliciteerd Verjaardag!は、「ハルテルック・ヘフェリシテールト・フェルヤールダッハ」と読み、直訳すれば「心をこめて祝われた誕生日」、ひらたく訳せば「お誕生日おめでとう!」である(ついでにいえば、オランダ語で「新しい」はnieuw)。この瞬間の感動を、今でもまざまざと思い出すことができる。こういう体験こそ、語学を学ぶ醍醐味のひとつだろう。

 そんなわけで、件のカードは、晴れてその年の妻の誕生日に使用することができた。しかし、上記の文言を流暢に発音することは、今もってできない。特に「ヘフェリシテールト」の部分で、どうしてもつっかえてしまう。しつこいようだが、江戸時代や幕末期の日本人たちは、いったいこれをどう発音していたのだろうか。

|

« 夢で出会うなんの変哲もない人々 | トップページ | a privileged creature »