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2012年12月17日 (月)

ノーベル賞作家にされた僕

 選挙結果のことは、言い出すとキリがないからまあやめておくとして、急に思い出した話。

 僕は「日本ファンタジーノベル大賞」というのを受賞して作家デビューしたのだが、その直後に取材を受けたいくつかのメディアの中に、ラジオ番組があった。

 うちひとつについては、ずっと前にこのブログでも触れた気がする。本放送時に「同録」したというカセットテープが後日郵送されてきたのだけれど、A面B面(と今書きながら思ったが、遠くない将来、この表現はもはや誰にも理解されなくなってしまうのではないか)全部再生したのに音声はいっさい入っておらず、担当者に問い合わせのメールを送っても返事がなかった、というやつだ。

 今回思い出したのはそれではない。パーソナリティの人が電話をかけてきて、それに僕が電話上で応えるという形式でインタビューに応じたときの話である。問題は、そのパーソナリティの人が、僕が受賞した賞を、「日本ファンタジーノーベル大賞」と言っている点にあった。

 いやノーベル賞じゃないし。

 と思ったのだが、それをその場で訂正すべきかどうか僕は迷った。電話でインタビューに応えるという形式を取ってはいても、それは実際には生中継ではなく、やりとりを録音したものを編集してから流すと聞いていたので、あとでどうとでもできるのかもしれない。しかし、「このたび平山さんは第16回日本ファンタジーノーベル大賞を受賞されたそうで……」という話のとっかかりのところでいきなり訂正を入れるのもどうかな、と思ったのだ。

 結局僕は、間違いに気づかなかったふりをして質問に答えはじめた。彼が賞の名を口にするのがそれ1回きりなら、「たまたま“ノ”の音をちょっと長めに発音しちゃったのかな」という雰囲気でなんとなくごまかせるのではないかと期待しながら。

 しかし彼は、ごていねいにも、その後も2度3度とこの賞の名称を省略なしで発音した。もはや、聞き間違えとか、たまたま言い間違えただけといった言い訳は通用しなかった。彼はいずれの機会にも、その都度はっきりと「ノーベル大賞」と言いつづけていたのだ。

 たぶん、どこかで間違って伝わっていたのだろう。そして、まあこれは無理もないとは思うが、彼はまちがいなく、この賞の存在をそれまでは知らなかったのだろう(彼もさすがに「直木賞」を「ナオーキ賞」と言ったり「チョクボク賞」と言ったりはしないだろうから)。

 彼がそういう職業の人らしく滑舌よく明瞭に「ノーベル大賞」と発音するたびに、僕はたいそう居心地の悪い思いを余儀なくされたのだが、最初にあえて見逃した間違いを途中で指摘するのはもっと不自然だと思ったので、そのまま受け流していた。

 どうせその番組を何人が聴くかもわからないのだし、聴くとしても、ラジオ番組というメディアの性質上、一言一句まで真剣に聞き取ろうとする人などおそらく1人もいまい。まして、その中でこの賞のことをもともと知っていて、変だということに気づく人がいったい何人いるというのか。

 それでも、実際それがどのように放送されたのかは、やはり気になっていた。この制作会社も、本放送後に録音を郵送してくれるということだったので、僕はそれを待っていたのだが、待てど暮らせど、そこからは何も届かなかった。

 別の会社とはいえ前例があっただけに、今度は僕も、わざわざ担当者に確認などしようとはしなかった。そのかわり、ラジオ番組というものに対して、正確には、その制作サイドの担当者というものに対して、信用がまったくなくなってしまったことは否めない。幸か不幸かその後はラジオ関係から取材の依頼が来ることもないが、この不信感を覆してもらえるものならそうしてもらいたいところだ。

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