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2012年12月10日 (月)

あるアルケオロジー

 まったくもって今さらのどうでもいいことだが、このブログがなぜ「平山瑞穂の白いシミ通信」というタイトルになったのかという話。

 20067月まで、僕ははてなダイアリーで「平山瑞穂の黒いシミ通信」というブログをやっていた。そのタイトルは、デビュー作『ラス・マンチャス通信』の単行本版(2004年刊行)のオビにあったコピー、「何をしていても僕を追ってくる『黒い染み』。逃げ場はどこにも、ない……。」をモジったものだった。また、「ラス・マンチャス」という言葉自体が「染み」という意味なので、「黒いシミ通信」は、「ラス・マンチャス通信」という書名とニアイコールの関係にあったわけだ。

 ところが、2006年8月から、@niftyで『シュガーな俺』のネット連載を始めることになり、それと抱き合わせで、ココログでブログを書くことを求められた。並立させるのは事実上無理なので、ひとまずココログに引っ越しをすることにした。

 ただ、その時点では僕は、いずれはまたはてなのブログに戻るつもりでいた。だから「黒いシミ通信」も「休止中」ということでそのまま残しておいて、それとの区別をつけるために、こっちは「白いシミ通信」と安易に名前を一部だけ変更したのである。

 わりと「黒い」ことを書いていた「黒いシミ通信」時代に一度区切りをつけて、これからはもう少し「白く」なろうと心がけたという意味合いもなくはなかったが、どちらかというと単に区別するだけのための標識だったと思う(事実、この「白い」ブログになってからも、僕は結局定期的に毒を吐きつづけている)。

 しかしさまざまな理由から、僕は結局、はてなには戻らず、ココログでのブログ(つまりこれ)をそのまま続けて現在に至っている。今となっては、「なんだよ白いシミって」という感じである。当初から一定量存在する、「肌 白いシミ」等の検索ワードでこのブログを訪れる人々に陳謝したい。お役に立てなくてごめんなさい。業が深くてごめんなさい(原律子)。

 ときに、そもそもブログをこっちに移転するきっかけになったネット連載の『シュガーな俺』だが、これは、ブログ形式で小説を連載しながら、コメント欄で著者と読者が交流するという実験的な試みを伴ったものだった。本編が終了してからも、「シュガー通信」なるエッセイを週イチで連載し、コメント欄での読者との交流はひきつづき行なっていた。

『シュガーな俺』本編はその後単行本になり、文庫にもなったが、エッセイ「シュガー通信」およびコメント欄でのやりとりは、どこにも収録されていない。

 コメントといっても、単に「おもしろいです〜」「ありがとうございます!」といった、実質的な意味のない空疎なやりとりではなかった。書き込んできていたのは、多くはご本人が糖尿病患者であったり、家族に患者を持つ人であったりした。それだけで優に本1冊、2冊分になるほどの、切実で濃厚なやりとりの蓄積がそこにあったのだが、現在は閲覧することができない。

 閲覧がブロックされているという意味ではない。おそらくだが、データそのものがすでにきれいさっぱり削除されてしまっているのだ。連載終了後、@nifty側の担当者さんが他社に移り、誰が管轄しているサイトなのかがあいまいになってしまったことが原因らしい(ついでにいえば、連載開始当時には取り沙汰されていた「連載終了後の電子書籍化」も、うやむやになってしまった)。

 それを知ったときは正直かなりショックだったし、当時熱心に長文を書き込んでくださった読者の皆さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、電磁的記録というのはつまるところそういうものなのだと変に納得させられたところもある(紙に印刷されたものなら、最悪、印刷物だけはどこかに残ったはずだ)。

 いずれにしても、「ブログ形式による小説の連載」という試み自体、僕が知るかぎり、その後誰にも追随されなかった。この一例は、文字コンテンツ電子化の黎明期におけるあだ花のひとつとして、文芸史の狭間に消えていく運命にあるのだろう。

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