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2014年10月11日 (土)

『遠い夏、ぼくらは見ていた』刊行

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 幻冬舎文庫より、拙著『遠い夏、ぼくらは見ていた』が刊行された。これは僕の12冊目の単行本『偽憶』(2010年刊行)を改題の上、文庫化したものだ。

 15年前の夏、海辺のキャンプに参加した小学6年生の男女5人が、27歳になる年、弁護士によって集められる。キャンプの主催者が、そのうちの1人に莫大な遺産を贈与したいとの遺言を遺していたのだ。

 条件は、当時、主催者に感銘を与えた「或る事」をした者。ただし、誰がそれをしたのかを主催者は記憶していなかった。5人は、「或る事」の内容は伏せられたまま、ただキャンプ当時のことをできるかぎり詳しく思い出して手記にまとめることを求められる。

 ------おおむねそのようなストーリーだが、原題である『偽憶(ぎおく)』という造語にも暗示されているとおり、「改竄される記憶」「記憶の不確かさ」といったものに焦点を当てているという意味では、『忘れないと誓ったぼくがいた』や『マザー』等とも連なる、僕のライフワーク的な取り組みの一環でもある。

 と同時に、大矢博子さんの解説にもあるように、これは本来、僕が「最初からミステリを標榜して書いた」ものなのだが、単行本当時より、「これって本当にミステリになってるんだろうか」という疑念から逃れることができずにいた。それ以外にも、書き手として納得できていない部分がいくつもあった。

 もちろん、本来なら、そんなものをそもそも世に出すべきではない。ただ、いささか言い訳がましくなるが、単行本を出したのはサラリーマンとの兼業時代の末期であり、心身ともに限界にかぎりなく近づいていた。「納得できていない」という自覚がありながら、ではどこをどう直せばいいのかというのを具体的に考え、なおかつ実行する余力が残されていなかったのだ。

 今回、文庫化のお話をいただいたとき、当時は力が及ばずにできなかったことを、この機会にやってしまったらどうか、と思い立った。

 単行本を文庫化するにあたって、内容に手を加えることは、僕の場合、原則としてない。せいぜい、単行本刊行後に発覚した事実関係のあきらかな誤りを正したり、校正者からあらためて受けた指摘に応じて小さな修正を施したりする程度だ。

 今の自分から見て至らない点や未熟な部分などがあったとしても、その作品はすでにその形で一度は世に出まわってしまっているわけで、それを執筆当時よりも経験を積んだ者の目で見て、その水準に合致するように書き改めるのは、一種のあと出しジャンケンのようでずるいのではないか、という思いがあるからだ。

 事実、去年から今年にかけてまずまずの売れ行きを示した『あの日の僕らにさよなら』(旧『冥王星パーティ』)も、改題はしたものの、テニヲハ以外の部分には基本的にまったく手をつけていない。

 あれは僕の4作目の小説であり、11月に出る新刊『彫千代 〜Emperor of the Tattoo〜』(小学館)が通算21作目となる僕にとっては、ほぼ「初期」の作品といっていい。正直、今から見ると「洗練されていない」と思える箇所も多々あったのだが、あえてそのままの形で文庫にしている(幸か不幸かそれがけっこう売れてしまったばかりに、いささか気恥ずかしい思いをさせられてもいるのだが)。

 しかし今回ばかりは、単行本のときのままの内容で文庫化することにどうしても抵抗があったのだ。

 そこで、担当編集者に自ら改稿を申し出て、およそ1ヶ月半、かかりきりで全面的に書き改めた。もっとも、物語の骨格部分は、さまざまな熟慮の末、結果としてそのまま活かす形になった。書き直しが「全面的」なレベルになったのは、文体そのものを改めたことによるところが大きい。

 それ以外にも、流れとして不自然さを感じさせる部分、力技で強引に束ねてしまっていた部分などを可能なかぎり滑らかに鞣したつもりだ。

 ただ、それでこの作品が単行本時代と比べてより「ミステリ」らしくなったのかというと、これがどうも怪しい。とどのつまり、いわゆる「ミステリ」を書くことは、僕にはできないのではないか------そんな思いが、以前よりかえって強まってしまった感もある。

 それでも、単行本時代よりはずっと読みやすく、納得しやすいものに仕上がったはずだという自負はある。この作品で伝えたかったテーマも、より鮮明に打ち出せているはずだ。どうか、「これはミステリであるか否か」という点にはあまりこだわらず、虚心坦懐に読んでいただきたいところである。

 なお、改題後のタイトルなどが、某既刊本ととてもよく似ていることについては、どうか深く突っ込まない方向でご高配たまわれれば幸いである。世の中には「大人の事情」というものがあるのだ。


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