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2014年11月10日 (月)

最新刊『彫千代 〜Emperor of the Tattoo〜』発売

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 小学館より、僕の最新作、『彫千代 〜Emperor of the Tattoo〜』が刊行される。単行本としては21冊目に当たる。「きらら」20136月号から20148月号に連載された小説に手を加えたものである。

 この作品については「きらら」での連載開始時にもこのブログで軽く紹介させていただいているが、僕にとっては初の歴史小説である。

「彫千代(ほりちよ)」というのは明治時代の横浜に実在した刺青の彫り師であり、日本国内でよりもむしろ欧米諸国で名を上げ、「刺青師のエンペラー」とまで呼ばれて伝説化していた人物。本作は基本的にはその史実に基づいているが、この人物には謎も多く、結果としてはその謎の部分を僕自身の想像で大胆に補うような形でフィクションとして再構成したものといっていいだろう。

 刺青というと、イコール「怖い」「暴力団」(?)というイメージを抱く人がおおかただろうが、実際には非常に繊細で芸術的な世界である。彫千代の腕もまた、欧米人たちから第一級の芸術として高い評価を受けていた。にもかかわらず、人の肌に刻む刺青というものは、その持ち主が死んでしまえばどこにも残らない。

 そのはかないきらめきをめぐって、彫千代とその周囲の人々、師匠と弟子、女たち、仕事仲間や敵対者などが愛憎劇を繰り広げる。時は明治、ものすごい勢いで流入してくる西洋文明と伝統的な価値観がせめぎあい、ごった煮のような状態になっていた激動の時代である。そのさなかで彫千代は、静岡、大阪、京、神戸、横浜、東京、函館とあちこちを駆けめぐるのだ。

 内容については、これ以上は語らない。ただ今回は、僕がこれまでに書いたあらゆる本の中で、最も読者を選ばない、つまり、誰もがかけ値なく楽しめるものになっていると思う。誰より僕自身が、これを書き上げることによってまちがいなくひとつの大きなハードルを乗り越えたという感触を抱いている。

 読んでいただければわかるはずだ。とにかく、手に取って読んでいただきたい。絶対に損はさせない(とここまで著者が、というよりこのへそ曲がりで皮肉屋でうしろ向きで斜に構えた僕が言うのもめずらしいではないか)。

 なお、今回の表紙まわりはめちゃくちゃ豪勢である。題字はなんと金の箔押し+エンボス加工だ。書店でも異様な異物感を放つことだろう。逆に背景は、どことなくスミ1色の刺青そのものの色合いを思わせるような渋い紺色。これがなんとも「明治」な雰囲気を醸し出している。このあたりはデザインを担当してくださった山田満明さんの卓越したセンスの賜物だろう。

 カバーイラストは、「きらら」連載時のトビラ絵と「あらすじマンガ」が好評を博した煙楽(えんらく)さんの手になるものである。

 この人の描く、現代的にスタイリッシュにアレンジされた「彫千代」像があまりにハマっていただけに、カバーをお願いするのもこの人以外には考えられないということで、編集者との間では一瞬で意見の一致を見た。

 煙楽さんはこれ以外にも、目次ページや章トビラなどにたいへん心惹かれるカットを多数寄せてくださっている。どれもこれも、そのまま刺青の図案にしたくなるようなできだ。

 余談ながら、カバーの裏面にある英文(下画像)は、かつて実在した広告そのものである。明治時代、横浜の外国人居留地にあった「アーサー&ボンド」という骨董品商社が、マレー社というところから出版されていた日本旅行案内書に掲載したものだが、彫千代はいっとき、ここに刺青師として雇われていたのだ。

  この広告、よく見ると下の方にTATTOOING.という項目があり、その1行目にHori Chiyoの名が読める。これを見るたびに、「ああ、彫千代は実在したんだなぁ」とどこかピント外れな感慨をしみじみと抱かされる。この小説の執筆を通して、僕の中で彫千代という人物が、あまりにも生き生きとした確固たる「キャラクター」に育ってしまっていたからだろう。

 

 

Murray

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