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2015年9月 2日 (水)

極私的読書ガイド(4) ------こぼれ話:大槻香奈さんのこと

今回はちょっと脇へ寄り道させていただき、前回紹介した『株式会社ハピネス計画』の単行本の方で装画をご提供いただいたイラストレーター・大槻香奈さんについて述べたい。


Happiness_tan

このイラストだ。イラストというより、絵画といった方がいいかもしれない。暗い空洞のような大きな目、伝えたいことを押しとどめるように堅く結ばれた口元がたいへん印象的である。

単行本の方を刊行しようとしていた2007年、大槻さんはまだ駆け出しといっていい立場だったと思うが、担当編集者がたまたま個展かなにかを観て注目していて、装画にこの人の絵を使うのはどうかと打診してきた。サンプルをひと目見て、僕も「これだ」と思った。当時大槻さんは、これと似た表情を浮かべる少女の絵をいくつも制作していたのだ。

描き下ろしを依頼する手もあったが、既存の作品の中にこの小説(というか、作中に登場する「藤原たまり」という個性的な少女)のイメージにたまたまぴったりのものがあったので、それを使わせていただくことになった。彼女の作品が書籍の表紙を飾るのはこれが初めてだったはずで、ご本人も喜んでくださっているとのことだった。

自分の本の表紙に使われたという縁ももちろんあるが、作風として単純に惹かれるものがあったので、近くで個展などが開かれるならぜひ観に行きたいと思っていた。

しかし大槻さんは京都在住で、東京方面で個展を開く機会がそうそうザラにあるわけではない。ときどきホームページをチェックすると、東京で個展を開催していたのだが先週会期が終わったところだったとわかる、といったすれ違いが何度か続いた。

実際に個展会場に足を運べたのは、実に7年後、去年の1月になってからだった。

けっこう大きな会場で、平日の日中にもかかわらずかなりの客が訪れていた。そして作品のキャプションの多くには、売却済であることを示す赤丸シールが貼られていた。数十万円するような大がかりな作品でさえ、飛ぶように売れているのだ。今や押しも押されもしない売れっ子である。 

書籍のカバーに使われる機会もその後ぐんと増えたようで、最近刊行された本の見本がたくさん展示されていた(残念ながら、『株式会社ハピネス計画』はその中にはなかったが)。

作風としては、(『株式会社ハピネス計画』の装画のような)初期のスタイルのエッセンスを踏襲しつつも、よりポップな方向に大きく舵を取っているような印象を受けた。

会場にご本人がいらっしゃればひとこと挨拶していきたかったのだが、それもかなわず、しかしせめて訪れたことは伝えたくて、芳名帳に記名していった。

後日、ご本人から手書きのメッセージ(+イラスト)つきでお礼のハガキが届いた。最初は、「あ、芳名帳を見て『株式会社ハピネス計画』の著者だと気づいてくれたのかな」と嬉しく思ったのだが、よく見るとメッセージは一般的な内容で、個体識別がなされた上でのものではなさそうだった。

よくよく考えてみれば、仮に大槻さんが「平山瑞穂」の名を見て「あれ?」と思ったとしても、それが『株式会社ハピネス計画』の著者と同一人物であるという保証はどこにもない。芳名帳に名を残すなら、「『株式会社ハピネス計画』の装画ではお世話になりました」などとひとこと書き添えておくべきだったと悔やんだ。

なんというか、「押しつけがましいことをしたくない」という半端な遠慮っぽさが災いしたケースといっていいのだろう。芳名帳に住所氏名を書き残すこと自体、ある意味ですでに押しつけがましいわけで、そこで生半可に遠慮することにどれだけの意味があったというのか。

大槻さん、もしこのブログを読まれることがあれば、あれは僕でした。遅ればせながら、ご活躍のご様子、たいへん喜ばしく思っております。

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