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2015年12月17日 (木)

新刊『バタフライ』

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幻冬舎より最新書き下ろし『バタフライ』が刊行された。僕にとって通算23作目の単行本(最初から文庫として刊行された『遠すぎた輝き、今ここを照らす光』を含む)である。

20作も超えると、今度何作目なのかというのをいちいち数えないととっさにはわからなくなってくる。極端に子だくさんの人というのは、こんな気持ちなのではないだろうか。それぞれの子どもへの愛情がないわけではないのだけれど、あまりに多すぎて一人ひとりに目が行き届かなくなるこの感じ。

さて、「バタフライ効果」と呼ばれるものがある。自然環境の中で生じたわずかな変化が、力学的な連鎖を引き起こし、自然災害などの大きな結果に結びつくというその可能性を、寓意的に表現したものだ。これを、偶然すれちがうことになった人間同士の相互作用で表現できないかと考えたのが、本作を執筆するに至った動機だ。

たとえば今日、あなたがたまたま朝から気分がよくて、いつもなら無視している募金に応じたとする。あるいは逆に、勤め先でいやなことがあったばかりに、帰りに寄った居酒屋で従業員に対してついきつい調子でなにか言ってしまったとする。

なんの気なしにしたそのことが、別のだれかのなんらかの行動を引き起こし、それが巡りめぐって、どこかで大きなできごとに結びついていたとしたら? テレビのニュースで知るような、自分の与り知らないところで起きた大きな事件に、その自覚もないままに、自分も遠因のひとつとして関与していたとしたら------?

そんな空想を突きつめていったところに、本作は成立している。だからこれは、「ミステリー」と銘打ってはいても、いわゆる謎解きものではない。むしろ、あるできごとが「いかにして起こったか」を、時系列に沿って説いていくような構成を取っている。そこで真に問題になるのは、この「あるできごと」に結果として関与することになった、それぞれは接点を持たない人物たちの生きざまである。

なお、Amazonなどにおける本書の紹介文(オビの文言とほぼ同様)は、以下のとおりになっている。

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尾岸七海(13)は母の再婚相手に身体を求められていた。「この男を本当に殺したい」。島薗元治(74)は妻に先立たれ、時間を持て余している。「若い奴は全くなってない」。永淵亨(32)はネットカフェで暮らし、所持金は1887円。「もう死ぬしかないのか」。山添択(13)は級友にゴミ扱いされて不登校に。「居場所はゲームの中だけだ」。設楽伸之(43)は二代目社長として右往左往している。「天国の父に笑われてしまう」……。全く接点のなかった、困難に直面する一人ひとりの日常。誰かの優しさが見知らぬ人を救う、たった一日の奇跡の物語。

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オビには、芥川賞作家・羽田圭介さんから推薦コメントをいただいた。カバーデザインは片岡忠彦氏。裏表紙では、同じ東京の夜景が揺れている。一匹の蝶の起こした波紋が、東京全体を震撼させているという趣向だ。ラフを見たときには、その芸の細かさに思わず唸らされた。

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