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2019年12月24日 (火)

新刊『ドクダミと桜』

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 2年ぶりの新刊、小説としては2016年の『妻を譲らば』以来3年7ヶ月ぶり、25作目に当たる『ドクダミと桜』が、このたび新潮文庫から上梓される。文庫だが新作である。まちがえないでほしい。既刊の単行本を改題して文庫化したものではない。

 ここのところ、「文庫化に合わせて(ほとんどの場合は著者である僕自身の意に染まない)改題」を強いられるパターンが続いているので、わざわざこんなことを強調せざるをえなくなっているわけだが、タイトルについていえば、そもそも文庫化でなくとも僕自身の意見が通らないことが多い。今回はめずらしく僕の原案どおりである。原稿を書いている段階から、「このタイトルにせざるをえなくなる」ように周到に仕向けてきた結果でもあるのだが、それでもなかなかの苦戦を強いられた。僕としては快挙といいたいところだ。

 オビにあるとおり、高校中退のシングルマザーと、妊活に悩む大学図書館司書という2人の女性の、幼馴染時代から30代中盤の現在に至るまでの複雑な友情関係を描いた物語である。経済格差に分断された2人の物語でもあるが、主人公の2人はどちらも女性だ。

 前から「女性同士の友情」を描いてみたいという思いが僕にはあり、今回それが果たせた形だが、僕自身は男性なので、そういう意味ではなかなかチャレンジングな主題だった。どこまでその機微を掬いあげることができたかは、読者の厳正な評価に俟ちたい。

 装画は佐藤紀子さん。ポップながら大人の雰囲気も醸すいいたたずまいの装幀に仕上がっていると思う。さる友人には、「装幀といい、タイトルといい、向田邦子のような雰囲気」といわれ、なるほどと思った。アルバイト的に書いている「週刊朝日」での書評で、奇しくもつい先日、『向田邦子の本棚』という本について原稿をまとめたばかりであり(掲載は少し先だが)、不思議な暗合を感じる。

 解説は書評家の大矢博子さん。『遠い夏、ぼくらは見ていた』以来、解説をお願いするのは2度目だが、大矢さんの解説を読むと毎回、「この本は表向きこういう装いになってはいるが、実は真の狙いや眼目はここにある」といったあたりを実に巧みに文章化してくださっていて(というより、予測される読者のブーイングを先回りして封じてくれている、というべきか)、その穿った読みに唸らされる。まあそれだけ僕の小説が素直でないというか、どこかしらひねくれたところがある、ということでもあるのだが……。

 ともあれ、どうにか年内に形にできたことにはほっとさせられた。原稿そのものは、実は去年の今ごろにはアップできていたのだが、諸事情で刊行がずれこんでいたのだ。ここのところ、僕の周囲は「諸事情」だらけだ。大人の階段を上ってからこのかた、常に大人の事情に翻弄されている。

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