2冊の新刊
ずっと本を出せない状態が続いたかと思えば、今月は矢継ぎ早に2作も本を出すことになってしまった。特別な意図があってのことではなく、それぞれがそれぞれの事情で刊行がずれ込んでいる間に、たまたまそういうめぐりあわせになってしまったのだ。
1作は、去る1月18日に光文社新書から刊行されたエッセイ『エンタメ小説家の失敗学』、もう1作は、論創社から「論創ノンフィクション033」として本日(1月27日)刊行された、『近くて遠いままの国 ―極私的日韓関係史』だ。
『エンタメ小説家の失敗学』は、僕自身が2004年、『ラス・マンチャス通信』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家デビューを果たしてから18年の間に、いかなる艱難辛苦のもとに置かれ、いかに翻弄されてきたかを赤裸々に綴ったものだ。昨年、noteで40回にわたって連載していたものでもあるが、未発表の〈コラム 文芸出版業界の奇妙な慣行〉と「あとがき」も含まれている。
エンタメ小説家としての僕の18年間はまさに悪戦苦闘の連続で、報われないこと・ままならないことばかりだったのだが、その経験を自虐的に振り返り、検証することで、作家を目指す人たちにとってのせめてもの教訓・助言にできないかという思いでしたためたのがこのエッセイだ。
かつての担当編集者たちに気まずい思いをさせることもあるだろうし、それでなくとも、さまざまな反感や揶揄を引き起こす可能性もある本だが、まあそれは覚悟の上だ。
一方、『近くて遠いままの国 ―極私的日韓関係史』は、創作(中編小説)と中編エッセイからなるハイブリッドな本である。どうしてそういう構成になってしまったのか、その理由は本文中にも詳しく綴っているが、簡単に言えば、小説(『絶壁』)の方の分量が1冊分に満たないばかりに本にできず、発表できない状態が6、7年も続いていたのをどうにかしたいという思いから選んだ苦肉の策だった。
エッセイ(『近くて遠いままの国 ―極私的日韓関係史』)の方は、小説『絶壁』の長い解説に当たるものと取ってもらってもいい内容だ。
僕は初めて自発的に学んだ外国語が韓国語、初めての海外旅行が韓国であった上に、韓国とも関わりが深い職場に勤めた経験もあり、作家になってからは、デビュー作から4作目までがたてつづけに韓国で翻訳出版されている。そんな浅からぬ縁を持つ韓国およびそこにルーツを持つ人々と自分自身との関わりを、少年時代から現在に至るまでたどりなおしたのがこのエッセイだ。
なお、光文社新書の方は一般書店にも置いてあるだろうが、『近くて遠いままの国』については、ネット書店に当たっていただいた方が確実だと思うので、その点はご了承願いたい。
| 固定リンク
コメント
初めまして 私は平山先生の大ファンとまではいかないかと思いますが、かなりのご著作、拝読させて頂いてます。「エンタメ小説家の失敗学」を昨日読みました。正直な感想は「何故そこまで」というものでしたが、今まで読んだ村上春樹の評論、「シュガーな俺」(半分フィクション?)を読んできた身としては、そこまで意外では無かったかもしれません。私は「マザー」と「偽憶」(でしたか)、傑作だと思ってます。
単行本から文庫化される際、ほとんど毎回タイトルが変わる理由も納得しました(3冊くらいダブりで買っています)。これからも新作お待ちしております。
投稿: はぐな | 2023年2月12日 (日) 17時16分
はじめまして。
私の偏愛作家である平山さんの新刊が、続けざまに刊行され、我がことのように喜んでおります。
『エンタメ小説家の失敗学』に、奥様と共働きで、ライターの仕事もなさっていると書かれていたので、ひとまず安心はしましたが、本が出ないと「ちゃんと食べてるだろうか?」なんて、ちょっと心配でした(笑)。
平山さんの作品で、一番好きなのは『全世界のデボラ』(特に「十月二十一日の海」)。それに『マザー』『ここ過ぎて、悦楽の都』『ルドヴィカがいる。』などが好きで、要は、あちらの世界との間を彷徨するような作品が好みです。私は勝手に「ウルトラQ」系、と名付けています。
これまで、まともなレビューを書いてなかったんですが、『エンタメ小説家の失敗学』では、平山さん文学観や創作観が書かれていたので、今回はわりと「平山瑞穂論」的なものが書けました。
ご笑読いただければ幸いです。
・平山瑞穂 『エンタメ小説家の失敗学 ~「売れなければ終わり」の 修羅の道』 : 業としての美意識
https://note.com/nenkandokusyojin/n/n0d63c4aae8e6
『近くて遠いままの国も』も、すでに入手済みですので、おいおい拝読いたします。
どうぞ、くれぐれもご自愛ください。
投稿: 年間読書人 | 2023年3月24日 (金) 17時01分
> はぐなさん
コメントをだいぶ前にいただいていながら、どうやら今の今まで見落としていたようで、たいへん失礼いたしました。
いろいろ読んでいただけているようで、痛み入ります。特に、3冊ほどダブって購入されてしまったことについては、申し訳ない思いでいっぱいです(改題自体、僕自身の意志によるものではないとはいえ)。
ハルキ論や「シュガーな俺」をお読みなら、たしかに、物語の書き手としての顔以外の僕の「素」の部分についても、ある程度
ご存じだったでしょうね。
言い出すと全部言わずにはいられなくなるタチですので、そのあたりはご容赦ください。
新作を次にいつ出せるかは分かりませんが、どうにか生き延びていきます。
お返事が遅くなってしまったこと、重ねてお詫びいたします。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: 平山瑞穂 | 2023年3月24日 (金) 18時53分
> 年間読書人さん
力の入ったレビュー(あるいは作家論)を書いてくださり、ありがとうございます。実は今回のレビューは、このコメントでお知らせいただくのにわずかに先立って、自力で見つけて拝読しておりました。
以前にも、『マザー』について書いてくださったレビューを読んだことがあり、言いたくても言えなかったことを代弁してくださったように感じて感激しておりました。
今回のレビューについても、「ああ、わかってくれている人がここにいる」と思いつつ、嬉しく読ませていただきました。
いっときは本当に、それまでの貯えがなければ食い詰めていただろうという時期もあったのですが、いいことなのか悪いことなのか、ライターとしては売れっ子になりつつあり、食べていくのに困るという状況はどうにか抜け出せたようです。
「十月二十一日の海」をお好きな作品として挙げてくださっていることは嬉しいですね。あれはどこからともなく「降りてきた」作品で、自分でも非常に気に入っております。
『近くて遠いままの国』もご購入いただけたとのこと、嬉しいかぎりです。
自分でも、いずれ一般受けはしないというさだめのもとに生まれた書き手だとは思っていますが、年間読書人さんのように、わずかながら理解者もいてくださるのだということは、大きな励みになります。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: 平山瑞穂 | 2023年3月24日 (金) 19時05分
こんばんは。
先ほど、『近くて遠いままの国 極私的日韓関係史』のレビューを、「note」の方へアップさせていただきましたので、ご報告させていただきます。
今回はちょっと辛口ですが、私の「在日」観や「ネット右翼」観が、如何にして形成されたかも書いておりますので、理解不能なものにはなっていないと思います。
ご笑読いただければ幸いです。
・平山瑞穂『近くて遠いままの国 極私的日韓関係史』: 絶壁に爪を立てよ!
https://note.com/nenkandokusyojin/n/n716012efa72d
投稿: 年間読書人 | 2023年4月25日 (火) 23時29分
> 年間読書人様
すみません、コメントのご投稿に気づいていませんでした。次の日にラジオ番組への生出演を控えていたため、気もそぞろだったようでたいへん失礼いたしました。
ただ、noteに投稿されたくだんのレビューについては、たぶんご投稿からほどないタイミングで、自分で気づいて拝読しておりました。
今、もう一度確認しようとしたら、なぜか見当たらなくなっていたのですが(コメントに対する僕の反応がなかったことが原因だったとしたら申し訳ございません、他意はまったくありませんでした)、内容はあらかた覚えております。
たしかに今回は辛口で、耳に痛いところもありましたが、主人公・隼の心理の掘り下げについては、あえてあそこで止めたという面もあります。
心中に明らかな矛盾があるのに、本人にはそれをどうすることもできないというその心の様態そのものを示すことで、書き手としての自分の役目はまっとうできていると僕自身は考えておりました(そこから先は、「語りえぬこと」だということです)。
もっとも、そのせいであの作品が中途半端な状態に置かれているという見方もできるかもしれませんので、それについては今後の課題とさせていただきます。
いずれにせよ、いつも丁寧なレビューをしたためてくださっていることには、感謝の気持ちしかありません。コメントへの返信が遅れたことであらぬ誤解を招いてしまったのだとしたら、心苦しいばかりです。
気を悪くしたとかそういうことではまったくなかったということは、重ねて強調しておきます。
投稿: | 2023年5月10日 (水) 14時42分
お返事、ありがとうございます。
私のレビューを先に読まれていたのに、なぜか後で見当たらなかったので、私が気を悪くしてレビューを下ろしたのではないかと、そんなご心配をおかけしたようですが、そんなことはしていませんので、どうぞご安心ください。
たぶん、検索サイトでは、一度検索に乗っても、すぐに別のものと差し代わることがありますので、そんなことではないかと思います。
あと、レビューをたくさん書いているから、私のページを見ても、思いのほか先へ流れていたせいかも知れません(笑)。
もちろん、素人のレビューに、いちいちご感想を返してもらおうなどと厚かましいことは考えていません。それに私は辛口ですから、無視にも慣れています。
ただ、やっぱり、ぜんぜん反応がないと気になるのは事実で、ちょこちょこ検索してたら、Twitterで「エゴサーチは、落ち込むだけなので、やめることにした」というようなことを書かれていたのを見つけて「ああ、辛口だと書いたから、警戒されて読んでもらえないのかな」なんて思ってあきらめ、今日はひさしぶりに確認した、という次第です。
ラジオ出演については、当日、ネット記事を友人が知らせてくれました。
短い記事で物足りなかったのですが、大竹まことさんは、自分の意見をしっかり言う人で、前から好感を持ってましたから「さすがは大竹さん、ちゃんと見てるな」と感心しました。
「絶壁」の「書き込むか、書けるとこまで書いて、あとは読者に委ねるか」というのは、たしかに考え方、あるいは趣味の違いは大きいと思います。
私の場合は、すでにお気づきのとおり、言いたいことはぜんぶ言うというタイプで、大西巨人が好きなのも、そういう徹底性に惹かれるからです。
ただ、平山さんは「手の届かないものへの思い」を重視なさる方だから、あえて手を突っ込まない美学というのも理解はできます。
しかしまた、扱われた問題がリアルなだけに、私としては、踏み込んで欲しかったなという感じだったのだと思います。
ともあれ、次の本を期待しておりますので、お身体に気をつけて、バリバリ書いてください。
長文、失礼しました。
投稿: 年間読書人 | 2023年5月12日 (金) 05時46分
> 年間読書人様
ご返信ありがとうございます。誤解させてしまったのではなかったことがわかり、ホッとしました。
アンチの意見に触れて心を乱されるのがいやで、ひと頃からエゴサーチを控えているのは事実ですし、悪いことを言っていそうなレビューなどならなおのこと読まないようにもしていますが、年間読書人さんについては、仮に辛口のご意見でも、基本的に公正に書かれているという信頼感がありますので、読むのを避けるということはないと思います。
今後ともぜひよろしくお願いいたします。
余談ながら、ラジオ生出演は初めての体験で、緊張のしどおしでしたが、大竹さんが非常に物柔らかで紳士的な方だったおかげで、なんとか言い淀みもなく語ることができたと思います。
投稿: 平山瑞穂 | 2023年5月12日 (金) 17時32分